さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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突如として作者の脳内に溢れ出した()()()()()記憶────という名のどこかの世界線にいる僕ととあるウッマの話。


*きみはともだち

ひとりぼっちだった僕に話しかけてきたのはキミだけだった。

 

『キミひとり?

なら一緒に遊ぼう!』

 

ひとりが好きだった僕は走って逃げた。

そうすると基本的にみんな諦めるから。

けど、

 

『ぜぇ、はぁ…。

やっと止まった…!』

 

キミは諦めなかった。

何度もそうして絡んでくるから結局は絆されて、

 

『僕はボーイって言うんだ。キミは?』

『…チビ』

 

それが僕-シルバーバレットと彼-シルバマスタピースの出会いだった。

 

 

シルバマスタピースは何度僕に負かされても諦めなかった。

厩舎が火事になって残ったのが僕らふたりだけだったから併走の相手はお互いだけで。

 

『また負けた〜!』

『マス太は諦めないんだね』

『マス太って呼ぶな!

…そーだなー。だって僕はバレットのライバルだもん』

『…ライバル?』

『そう!』

 

顔に火傷を負った僕とは違い、マス太は無事だったから三冠競走へと出走していった。

『バレットの代わりに勝ってくるね!』と意気揚々としていた彼が『ごめん』と謝りどおしになったのはうっとおしくもあり嬉しくもあり…。

 

また怪我に悩まされる僕とは違い、マス太はちょこちょこと勝って毎回僕に報告してきていた。

 

『バレットのこと待ってるから、一緒に走ろうね!』

『…いつも走ってるだろ』

『本番の舞台でだよ!』

 

みんなが誰にも負けない僕を遠巻きにするのに、マス太だけはずっと友だちでいてくれた。

僕を待っているとずっと言ってくれた。

あの時だって、

 

『…バレット?』

『よかったな、勝てたじゃん』

 

脚を複雑骨折する前、僕は一度だけマス太に併走で負けた。

勝ててよかったねと言う僕にマス太は『おかしい』と何度も怒った。

 

『バレットが僕に負けるわけない!』

『えっ?…お前めんどくさいやつだな。

ずっと勝ちたいって言ってたんだから喜べばいいだろ』

『それとこれとは話が別なの!』

 

そうして骨折したあとも、屈腱炎になったあとも、お前は僕を待っててくれた。

 

『待ってるから一緒に走ろうね!』

 

そう、言ってた癖に…。

 

『嘘つき』

 

輸送機の前でそう呟く。

ジャパンカップに勝った僕は海外遠征に行くことになった。

アイツは、マス太は…、

 

『謝ったじゃんか〜何度も!』

『知らね』

『許してよバレット〜!!』

 

海外遠征に行く僕の帯同馬として今、隣にいる。

待っていると約束した癖に怪我で引退しやがって…!

 

『絶対許さねぇからな』

『そんな〜!』

 

やんやと僕に謝ってくるマス太に隠れて笑う。

情けない声で僕の名前を呼んでるんだ、ずっと。

 

『なぁ、ピース』

『へっ?!な、なに!?』

『約束、守ってくれたら許してやらんでもない』

『ま、守る!守る守る!!』

『そうかい』

 

泣きそうな目で、真剣に見つめてくる彼に僕は告げる。

 

『もう、僕を置いていかないで』

 

それが約束。

…守らないってんなら地獄の底まで追っかけるからな?

 

 

 

 

 

 

 

 




僕:シルバマスタピースとは幼なじみであり同期であり親友。
幼名は「チビ」。
家族以外で認識している馬はシルバマスタピースのみ。
何度負けても自分に食らいついてきて、友人してくれるシルバマスタピースに対しての好感度は高め。騎手くんとどっこいくらいには高めの好感度。
シルバマスタピースの前限定でちょっとオラついたりもする。
「待ってる」って約束したくせに先に引退したシルバマスタピースには少しばかりお怒りで対応が塩っぽくなってる。
それでも(友人として)大好きなので「ずっと一緒にいろ(意訳)」という約束を取り付けた。
1990ジャパンカップを勝つまでは表舞台に出ないながらもG1馬であるシルバマスタピースの親友であり、そんな彼が唯一負け続けた馬として名を知られていた模様。


シルバマスタピース:本当の名前はシルバーマスターピース(Silver Masterpiece、銀色の傑作の意)。字数制限のため伸ばし棒を削られた。
幼名は「ボーイ」。
突然生えてきた僕の幼なじみであり同期であり親友でありライバル。
僕の馬主の所有馬で体格のいい栗毛の牡馬。シルバーなのに栗毛…。一応良血馬。脚質は逃げ寄りの先行。顔立ちもいいから『ターフの貴公子』やら『栗毛の美丈夫』とかいう二つ名がついてるかもしれない。
僕からは基本的に「マス太」と呼ばれている(真剣な時は「ピース」呼び)。
トウショウボーイ産駒で明るく社交性のあるタイプのウッマ。
厩舎の火事から僕と一緒に生き残った。
主な勝ち鞍は安田記念(1984・1987年)、宝塚記念(1986)。
最適性の距離はマイルで、宝塚記念はギリギリだった模様。

僕に何度負けても諦めず併走を挑んでいた。
僕に挑んで諦めなかった唯一の存在でもある。
僕が脚を複雑骨折した1986年ダイヤモンドステークス前の併走でたった一度だけ僕に勝ったが、「キミが僕に負けるわけないだろ!」と素直に喜べなかった。
僕を負かすなら本番の舞台で負かしたいため、その勝利はノーカン認定。
そのあと僕が脚骨折してヒエヒエになる。

「待ってる」と約束したくせに引退した件に関しては自分でも悪いと思っており、そのことを出されると僕に強く出ることができない。
引退後は種牡馬をしていたが僕の海外遠征の際に帯同馬として選ばれる。
何度謝っても僕が許してくれないことに「はわわ…」していたが、「ずっと一緒にいろ(意訳)」という約束を取りつけられすぐさま了承した。
なおコイツが僕を引き止めたお陰で生存‪√‬に入っている。

多分、僕が♀‪√‬だったらCBを差し置いて初年度の相手に選ばれていただろう男(同馬主で仲が良かったから)。「キミに一目惚れしたんだ」と恥ずかしげもなくサラッと言いそうな男(幼なじみ)でもある。

ウマ時空だったら競技引退後に僕専用のサポーターになってそう。
脚に不調を抱えまくる僕に献身的に付き合い支えて、トレーナーとはまた違った信頼関係を築いてるんだ…。
普段優しいコイツが唯一キレたのが僕が度重なる脚の不調により走ることを諦めかけた時だったらいいよね。
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