さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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今日も今日とて。



腹が鳴る

「食べるならちゃんと食べなよ」

「何が?」

「分かってるクセに」

 

こちらを振り向いて、ニコリと笑う様はいっそ清々しい。

自分に寄ってくる皆々様を少しずつ少しずつ摘み食いしていく"蜘蛛"は、今日も今日とて(ワナ)を張っていた。

 

「……いやぁ、流石にアレはないでしょ」

「えぇ? そうかなー」

「そうじゃない?いくらなんでも節操なさ過ぎ」

「そんなことないってばー」

「あるね。少なくとも僕にはそう見える」

 

慕われやすい見た目と性格。

油断されやすい物腰。

そして、誰よりも懐に入るのが上手いこのウマは、その実誰より狡猾だ。

それはもう、それが()()()()なくらいに。

でも。

 

「"喰べる"ならもっと綺麗に…」

「だって僕少食だから♪」

「キミねぇ、」

 

にへら、と笑う顔。

その眼差しはどこか薄ら寒い。

 

「それにさ、あの子たちみんな良い『走り』するんだもん! あんなの我慢できるワケ無いじゃん!」

「……」

「あ、もちろん【英雄(キミ)】も良い匂いだよっ」

「はいはい、それはどうも」

「えへへ」

 

(ワナ)にかかる獲物を今か今かと従順に待ち、(ワナ)にかかればゆっくりと舐め、食み、胃に落とす。

しかし、全部を食べ切らず、残して次の獲物を探すのだ。

まるで、自分が狩ったという証を残しているかのように。

 

「……ホント、(タチ)が悪いよ」

「ん~?」

「キミの"悪食"の話!」

「何のことやら」

 

普段の食事の所作は良いクセして。

こっちの"食事"は…行儀が悪い。

 

「そんな顔しないでよ」

 

ニコリとキミが笑う。

歯を見せて、舌を見せて。

 

「【英雄(キミ)】のことは、全部喰べてあげるから」

「……そういう問題じゃなくて」

「ふふ、大丈夫。僕はキミのこと好きだし、愛しているもの」

「…"獲物"として、でしょう?」

「あはは、ヒドイなぁ」

 

ケラケラと笑いながら僕の肩に手を置く。

……そういうところだぞ。

 

「ま、いいよ。それでキミが良いなら」

「うん、ありがと」

 

そのまま抱き着かれる。

すり寄るように頬ずりしてくるその頭を撫でると、「えへえへ」と腑抜けた声がする。

まったく……。

 

「これであざといのが心臓に悪い…!」

「うわぁ、口説き文句みたいになってるぅ」

「褒めてるんだけど!?」

「知ってますぅー」

 

クスクスと笑う顔を見て思う。

きっとこれから先もこうなんだろうなぁ、って。

 

 

なぁに?

うん、そうだよ。

僕がぜぇんぶ喰べたいのは、今にも後にも【英雄】だけ。

他の人は…おやつみたいな?

小腹が空いた時に…うん、そう。

 

「美味しそうだよねェ、…【英雄】って」





【銀の祈り】:
シルバープレアー。
悪食の蜘蛛。
(ワナ)を張って小腹を満たしている。
でも一番喰べたいのは【英雄】と言い張って譲らないので、【銀の祈り】の本性を理解している勢からは日々熱い視線を頂いている。
…じゅるり。

【英雄】:
僕を喰べたいんじゃなかったっけ?
日々小腹を満たしている【銀の祈り】にジェラ…っ。
他の誰よりも…僕が一番"()()()()"のにッ!

それはそれとして、そう簡単に喰われる気もないし、逆に喰うつもりだったりもする。
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