さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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めっちゃ可愛がられてそ…。



馴染みの蹄鉄屋さん

「…ふぅん、その子が?」

「そう!初孫で〜す、かわいいデショ♡」

「お前が溺愛してることはよ〜〜く分かった」

 

初孫を紹介する老境の男に"ザンさん"と呼ばれている装蹄師はどこか飽きれた目をした。

孫がいる、とは元より話に聞いていたがやっとこさ今日見せてもらうまで数年の歳月がかかったのに、その溺愛ぶりは想像の遥か上を行く。

 

「ま、ウチの家のは昔っから拐かされやすいからねェ。まだ立って歩けないような年頃じゃぼくが連れ添ってようと外に出すのが怖くて怖くて!」

「そうかい」

 

そんな会話をしながら、"ザンさん"はしゃがみ込む。

ずっと老境の男の足に身を隠す幼子に話しかけるために。

 

「ほら、チビ」

「…ゃ、」

「大丈夫だって〜!このおじちゃん怖くないヨ〜?」

「だァれがおじちゃんだ」

「ぼくより若いけどキミも結構な歳だろ!」

「まァな。……チビ、ほら」

「ゃ!」

「あ、コラ!逃げないの!」

 

"ザンさん"が手を伸ばすと幼子はその手とはまた逆の、老境の男の足の後ろに回り込んで隠れてしまった。

その仕草に"ザンさん"がショックを受けたような顔になるのに老境の男は爆笑する。

 

「あっはっは!ゲホッ…ヤバ、変なトコ入っ…ヴェッ」

「うるせェな」

 

"ザンさん"が老境の男をひと睨み。

その視線にまた老境の男が笑う。

そんなふたりのやり取りを幼子はきょとんとして見ていた。

 

 

「ザンさん、お久しぶりです」

「お〜、坊主」

 

あの頃はあんなに人見知りだったのに、と子どもの成長は早いものだと感慨深く思う。

 

「大きくなったなぁ……」

「はい、もうトレセン学園に入学しましたし」

「……そうかぁ、もうそんなになるかァ……あんなに小さかったのになァ」

「ザンさん、それさっきも聞きましたよ」

 

ひょい、とシューズが出される。

あの小さな子が今や客になったと考えるとどうにも不思議な気分だ。

 

「じゃ、いつも通りに」

「はい、お願いします」

 

"ザンさん"は店の奥に入って行った。

その間、子どもはどうやら店に置いてある古いレース雑誌を読むことに決めたらしい。

 

「…もう古いヤツだから扱いには気をつけろよ」

「はぁい」

 

お得意さまであるこの子の一族以外の客はシューズのメンテナンスを半年に一回ぐらいか…?

まあ、時おりしか来ない。

だから、こうして店で働くよか、この子の爺さんとつるんで何処かに飲みに行ったり何だりしていることの方が多いのは…まぁ。

 

「そういえば」

「おう」

「おじいちゃん、また美味しいお酒買ったみたいなので」

「そうか」

「はい、なので…あんまり夜遅くならないようにしてあげてくださいね?」

「わぁったわあった」

「お願いしまーす」





"ザンさん":
一族お抱えの装蹄師だからね、そりゃあね。
気に入ってるヤツの孫なので結構僕のことを可愛がっている。
でもそこそこの頻度で履き潰したりメンテナンスに来るのは「アイツに似たな…」と思っているとか。
またお酒にも強いのでよくホワイトバックと呑んでいるとか。
なお"ザンさん"とホワイトバック、どっちが酒に強いかは…?
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