手折るがごとく、花弁を千切り。
「害のない『愛』なんて、あるわけねェだろ」
吐き捨てるように呟かれた言葉にホワイトリリィは、その驚きを表すようにゆっくりと瞬きをした。
「…いきなり、どうしたんだよ」
「なに、最近俺の愛しい白百合が油断してるようだから、な?」
ぐい、と引き寄せられた体は年齢差と性差からくる体格差もあってか簡単に抱き込まれてしまう。
耳元で囁かれる声音にはいつものような甘さはなく、どこか冷たい響きを伴っていた。
それにびくりと体を震わせれば、彼は愉快そうに笑う。
「あァ、怖いか?そりゃそうだ、今までやさしいやさしい伴侶としか見てなかった相手にこんな風にされたら誰だって怖くて震えちまうよなぁ……」
「私がンな可愛くてかよわいタマと思ってんのかテメェ」
「思ってるよ」
即答する彼に思わず舌打ちをする。
だがそんなことは気にも留めていないようで、彼の手はホワイトリリィの首筋を撫ぜた。
「お前さんは強い女だよ、それはよくわかってる。でもな、────俺も男なんだよ」
首筋に触れた熱に逃げようと身動ぎすれば、くつくつとした笑い声と共に拘束が強くなっただけだった。
「やめっ……!」
「嫌なら殴るなりで抵抗しろよ?俺はそれぐらいの力加減しかしてないんだから」
ほら、と言ってさらに強く抱きしめられる。
息苦しさに顔を歪ませても、彼は離してくれる気配もない。
むしろ面白そうな顔をしながらこちらを見下ろしているだけだ。
(ああもう!)
苛立ちのままに拳を振り上げようとした瞬間だった。
ちゅっと軽いリップ音が聞こえたかと思うと、ニヤリと悪い笑顔。
「やめろ」と言っても聞いてくれるはずもなく、何度も繰り返される触れ合い。
それが唇に到達するまでに時間はかからなかった。
「……ッ!!」
反射的にそれを手でさえぎった自分を見て、彼はまた楽し気に笑う。
「本当に、可愛いなお前は」
「うるせぇクソジジイ!!いい加減にしろ!!」
「仮にも旦那になんて言いよう」
「真に旦那だが!?いや旦那であっても許せることと許せないことが…ゴニョゴニョ」
最後の方は口ごもりながら言えば、彼からは嬉々として爆弾発言が飛び出してきた。
「なんだ照れてるのか?大丈夫だぞ、俺はどんなお前さんでも受け入れるつもりだし、何より愛してるからな」
「……スケコマシ」
「お前しか拐かさねェよ」
「うるせぇ」
「何だ、拐われたいか?」
「…拐われるもなにも、」
私はアンタのモンだろうが。
そう言って睨みつけてやったというのに、目の前の男ときたらこれ以上なく幸せそうに微笑むものだから、何も言えなくなってしまった。
……惚れたが負けとはまさにこのこと。
「愛してるよ、俺だけの白百合」
「なら、散るまで面倒見ろよ」
「あぁ、散っても愛するさ」
「…物好き」
夫婦:
妻が綺麗で綺麗で愛しくて愛しくてたまらないから、手折って花弁を毟り取りたい系夫と手折られも毟られる気もいっさい無いが一緒にいくなら業火の中でもどこでも連れ添ってやる、ぐらいには惚れ込んでいる白百合系妻(なお何度生まれ変わっても夫婦になると互いに思っているものとする)。
…でもまァ、手折ろうがむしろうが、お前は美しいままなンだろうけど。