キミに関しての記憶や思い出を書き連ねた原稿を書き終えた。
(何日食べてないんだっけ…)
そもそも何日寝てないっけ。
ぼんやりとした頭でそんなことを考える。
眠らないのは"彼"が帰ってくる夢を見てぬか喜びするのが嫌だから。
食べないのは"彼"がいない世界に生きる気力が湧かないから。
ペンを離したあと、無気力に床に崩れ落ちる。
視界には埃が溜まった畳が見えた。
…目を閉じる。
*
「…ここは」
目を覚ますと知らない場所にいた。
僕はあの部屋で眠ったはずだったのでは、と暗い空間の中で思考していると何かが歩いてくる音がする。
『見つけた』
「え…、」
少年とも男ともとれない声がして、そちらに振り返るとそこには、
「バレット…?」
『久しぶり、騎手くん』
ずっとずっと会いたかった"彼"が、シルバーバレットがいた。
おずおずと手を差し出せば撫でやすいように頭を差し出してくれる。
「どこに、行ってたんだ。ずっと、待ってたんだぞ…!」
『ごめんね』
バレットを抱き締める。
バレットはあの日と変わらず、柔らかく温かかった。
無意識に涙があふれてくるのにバレットは何も言わず僕が落ち着くまで待っていて。
『落ち着いた?』
「うん…。なぁ、バレット」
『なぁに?』
「これからは、いや、…もう、どこにも行ったりしないよな?」
『もちろん。そのために騎手くんを迎えに来たんだから!』
当然というようにそう答えたバレットは背に乗るように促してきて。
『こっちだってずっと騎手くんを待ってたんだよ』
僕を?
久しぶりに彼の背に乗りながら首を傾げていると話が続く。
『騎手くんがいないと僕は戦えないから。
こっちに来るとみんなにせがまれてせがまれて大変で…』
「せがまれるって、何を」
『そりゃあレースだよ』
しっかり掴まっててね、全速力で飛ばすからと言う彼に慌てて手綱を握る。
そうして風を切りながら辿り着いた場所は、
「競馬場…?」
『それもね…』
バレットが何か言おうとした瞬間、興奮した嘶きと共に気配が増える。
現れた彼らはとても強そうで、
『世界中の僕らみたいな奴らが集まってるのさ。
僕もずーっとせがまれてたんだけど騎手くんが来るまで保留にしてもらってたもんだから…、やっと来たってみんな盛り上がってるみたい』
バレットが僕を「どう?やるかい?」とでもいう風に見つめてくる。
でも、僕はもうおじいさんで…、
『なに言ってるんだ騎手くん』
「え…?」
『よく見てみなよ』
バレットにそう促され自分の体を見てみると、バレットと一緒にいた頃か、いやそれよりも若返っていて。
『それだけ若返っていれば凱旋門より飛ばせるでしょう?』
「…あぁ」
『振り落とされないようにね』
「善処はするよ」
『ハハハ!』
彼にとっては『しあわせ』なのです。