さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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『表』。
後悔には、素知らぬフリを。



怪物は、救いになれない

「僕は、救いになれないよ」

 

そう言って、小柄な影が笑う。

白っぽい灰色のウマミミがゆぅらりと揺れる。

我らが原初──"シルバーバレット"。

 

「原初だなんて。…ふふ、大袈裟だなぁ」

 

うっすらと開いた眼には、しかし生気はない。

あるものをただ映す、鏡のように空っぽな眼。

 

『走ることは、生きること』

 

過去にシルバーバレット自身が述べた通りに、ウマという存在の本能に従うなら……こんな姿にならずとも、とうに死んでいるはずなのだから。

しかしそれでもなお、その小さな身体はここに在り続ける。

何故なら、シルバーバレットが一族の長であるが故に。

一族が存続する限り、シルバーバレットは今日も変わらず、この世界に居続ける。

 

「…………」

 

そして、シルバーバレットは何も語らない。

ただ静かに佇み、遥か遠い何処かを見つめている。

それはきっと、シルバーバレットが追い求めて止まなかった何か。

それが何なのかを知る者は誰もいないけれど。

いつかまた、その夢を叶えてあげたいと願う者がいる。が

 

「僕なんていう過去のモノよりも、今を見てね…?」

 

 

いちばん強いというのは、いちばん孤独なのかもしれない。

そう思いだしたのは、いつのことだったか。

ずっと前に祖父の家から引き取った安楽椅子に座りながら、シルバーバレットは思考する。

眺める外には、家を作る際に特注で誂えた模擬レース場。

遠くで微かに、ウマたちの歓声が聞こえる。

いつも通りの風景だった。

何もかもがいつも通りで、そして二度と変わらないだろう風景だった。

レースがしたい、と思う。

でも、今の自分にはできない。

だって自分は過去のモノなのだから。

脚も、自分の本気にもう耐えきれぬだろう。

 

「…羨ましい」

 

己が生涯に対して、後悔はない。

けれど自らの血族が繁栄し、続いていくのが誇らしい…と思うのと同時に、対等なライバルがいる彼らを、満たされている彼らを、どうしても羨んでしまう。

自分などという異物がいてもいなくても、何の影響もなく世界は廻っていくことを知っている。

だからシルバーバレットにできるのは、それを見守り続けることだけ。

たとえその先に、かつて焦がれていたものが無かったとしても。

それがシルバーバレットにとっての、幸福であり救いである。

しかしそれすらも、ただの独り善がりにすぎないのではないか?

……そんな思いが湧いて出てきては消えていく。が、

 

「……うん、大丈夫」

 

外を眺めるシルバーバレットの瞳に映るのは、楽しげに走り、笑い合う子どもたちの姿。

自分が走り、そして去った後も彼らは生き続け、そしてさらに次の世代へとバトンを渡していくことだろう。

 

「僕はここで待つことしかできないけれど。だから僕の代わりに、僕の分まで、……どうか」

 

楽しんで、いってらっしゃい。





僕:
シルバーバレット。よく遠い目をする。
子孫たちを見守りつつ、「僕も対等なライバルが欲しかったな〜」と思ったりしているすがた。
でも自分の歩んできた道に後悔はない。

僕の血族たち:
子どもだったり孫だったりいろいろ。
よく遠い目をする僕に自分を見てもらいたいし、微笑むしかしない僕に心から笑ってもらいたい子たち。
僕を尊敬しているのは本当。でもそれ以外は…?
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