だが、勝者は事実によって裁かれる。
『怪物』が死んだ。
シルバーバレットが死んだ。
"サラ系"であった彼女。
実力を終ぞ最期まで認められなかったウマ娘。
彼女を見出した時、「ついに頭がおかしくなったか」と言われた。
そう言われるほどに"サラ系"は疎まれていた。
彼女はいつもひとりきりで、全身がびしょ濡れになっていたこともあった。
怒る僕とは裏腹に「怒ってくれて嬉しい」と笑う彼女は痛々しくて。
勝つたびにブーイングが起こった。
物を投げつけられたり、脅迫文が来たこともあった。
ドーピング疑惑だってかけられたし、彼女が怪我で離脱した時は「いい気味だ」と嗤われた。
『…いつでも、僕のトレーナーを辞めてくれていい』
それが彼女の口癖だった。
こんな自分を見出してくれただけで奇跡だ、と夢見る少女のように笑っていた。
トレーニング場所を取られるなんてしょっちゅうで、嫌味を言われるのもいつものこと。
根拠のない誹謗中傷もいつものこと。
それでも「慣れている」と彼女は笑う。
『僕が普通よりもココロが強くてよかったね』
ワールドレコードでジャパンカップを勝ったあの日、誰も彼女を祝福しなかった。
観客が見ていたのは彼女ではなくアイドルウマ娘で。
誰もが『次は頑張れ』とそのウマ娘を応援していた。
彼女には何の声もかけられなかった。
笑顔から一転、俯いて去る彼女を匿名で贈られてきた「サラ系の希望」と書かれた質素な横断幕だけが見つめていた。
『なんで今更?』
完全にゴマすりという嫌なニヤつきをした重鎮が帰ったあと、僕だけに届く声で彼女はそう言った。
渡された海外遠征に関する書類を面倒くさそうに見ながら唇を尖らせていた彼女の姿を覚えている。
『…世界に出たら、なにか変わるかな』
うっすらと希望を持ったまなざしもすぐに潰えて。
どれほど劇的な勝ち方でも彼女に贈られるのは賞賛ではなく、シラケたような疎らな拍手。
彼女は英雄になれなかった。
与えられたのは怪物という役柄だった。
『悪役でもなんでもいい。
どれだけ憎まれようとも世界が僕を見てる。見ざるを得ない!
誰もが僕を望まなくても、キミだけは望んでくれる。
そうだろ?』
ぐらりと揺れる瞳が僕を射抜いた。
今にも壊れそうな彼女に僕は強く頷く。
『なら、いいよ。
誰よりも勝ち誇ってやるから、そこで見ていて』
最期の彼女の顔はどんなのだっけ。
*
誰もが彼女のことを賞賛する。
栄光をもたらしながら、非業の死を遂げた『英雄』を。
「…ふざけるな」
そんなの罪悪感をなくしたかっただけだろ。
「"サラ系"が、なんだよ…。
なにかあの子が、シルバーバレットが悪いことしたかよ…!」
彼女を喪った今、アイツらは"サラ系"のウマ娘を求めて躍起になっているらしい。しかしその成果はかんばしいとは言えない。
だって元から彼らは世俗のことが嫌いだったのに、彼らの『英雄』たる彼女がいなくなったあとで、それまで彼女に見向きもしなかったのに彼女のことを評価し始めたのだから、ねぇ?
「なんで今更?」
…なんてね。
僕:前話の世界線のシルバーバレット。
幼い頃からのいろいろで痛みや辛さに『慣れて』しまっている。
多分、この世界線の僕の領域は周りから見るとマジでバケモンみたいになってる。そんなおキレイなモンじゃないからね。鬱屈とか「なんで?」って気持ちが綯い交ぜになった禍々しい領域してそう。
亡くなってからやっと功績が評価され始めた。
伝記なども作られたりするがめちゃくちゃ都合よく美化されてる。
貧困家庭から成り上がって世界一になったよ〜みたいな感じに。
家族や一部親しい人以外に、勝利を祝福されたことなんてたったの一度もなかったのにね。
"サラ系"の人々:僕に希望を見た。そして世間に絶望した。
僕が亡くなってからは僕が現れる以前よりも増して世間から隠れるようになる。
トレセン学園に行く者もほぼいない。
僕の伝記を見て、それがめちゃくちゃ美化されていることに気がついているので普通の人々に「シルバーバレットって凄いよね!」みたいに知ったかぶりされるのが地雷。
トレーナー:遺された人。僕を喪ったあと完全に人嫌いになる。
トレーナーを辞めようとしたが引き止められ辞められなかった。
籍だけ置いている状況で過ごしていたがそんなある日、シルバーチャンプという"サラ系"のウマ娘に出会う。
多分僕関係者でいちばん復讐者化してる人。
この世界でも「さよならはまだ言えない」を執筆しているが、できあがった本は盛大な暴露本と化しており、初めは出版を断られたが某乙名史さんに原稿を送ることで無事出版されている。内容はシルバーバレットに対する深い悔恨と世間に対する諸々の怒りが混ぜ混ぜされた感じ。
───ゆえに男は、世界に怒る。
ただ静かに泣くしかできなかった、小さき誰かのために。
せめてもの、罪滅ぼしとして。