さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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嗚呼、はやく失望してくれればいいものを。



防衛本能と残滓

…別に、どうでもよかった。

自分が他人から排斥されるのは自分が悪いからであって、その"事実"から反逆するのはどうにも気力がいることだったから。

自分が、周りから見ると『期待』される部類であって、それに伴う嫉妬だとかどうとかを受ける類いのウマであることも…幼き日より、察していた。

 

「…」

 

自分、ではなく、『シルバーチャンプ』という概念を見る人々。

もうそうなってしまえば自分という存在は無きに等しく、悲しむとか怒るとかいう次元には遠に無い。

ただ、自分は走るだけ。

……それに、蓼食う虫も好き好きか、自分の走りを見て喜んでくれる人も居るのだ。

その人たちの期待を裏切らないためにも、走り続けるしかないと幼いながらに思ったことは覚えている。

 

「……」

 

そして、そんな幼き日から数年が経ち、『レース』というものがどういうものかを知った頃のこと。

初めて出た、模擬レースで、自分より年上のウマと走って……勝った時のこと。

 

『シルバーチャンプ! 1着でゴールイン!』

 

ぼた、と汗が流れる。

ふぅふぅと荒く息をして、かけられる賞賛を聞き流す。

だって、誰も自分を見てやしないのだ。

彼ら彼女らが見ているのは『シルバーチャンプ』という、"かのウマ"に列なるいちばん新しい存在であり。

その存在を担当して、あわよくば…という魂胆が見え過ぎて辟易とするのも烏滸がましいくらいには、見え透いている。

『シルバーチャンプ』は、既に確固として完成された存在。

そこに新しく生まれるものなどなく、ただその外聞だけが流されていく。

根も葉もなく、蛇足がついて尾鰭がついての、何が真実か嘘かも分からなくなるほどの。

 

「……ウッシ、帰るぞ!」

「、」

 

なんて、思考に沈んでいるとドッとかかった衝撃に目を見開く。

見開いた目でその衝撃の主を見ると「オラ、帰るつってんだろ」と自分を囲んでいた人々を蹴散らして。

 

「オゥ、今日もキレッキレだったなぁ。どうだ、メシでも食いに行くか?」

「……また、抜け出すんですか?」

「…嫌か?」

「いや、はぁ…」

 

予想通り、衝撃の主は自分の同室であり先輩である【金色旅程】だった。

自分にとってはいわゆる、蓼食う虫も好き好きの虫である相手で、何が面白いのか琴線に触れたのかはしれないがこうして、何かあるたびに面倒なその場からそれとなく連れ出してくれたり、ご飯をご馳走してくれようとしたりする。

 

「良いんですか? また、何か言われるんじゃ……」

「気にすんな。んなもん、言わせときゃいいんだよ」

「……はぁ」

 

この先輩は、なんというか豪胆というか……無頓着というか。

自分が今こうしていられるのも、この人のお陰な部分が大きいので文句は言いづらいが。

 

「お前だって嫌だろ?」

「なにがですか?」

「ああいう風に好き勝手言われてよ」

「……別に、どうでもいいですよ。ただ走るだけですし」

 

そう、走っていれば後はどうでもいい。

…嗚呼、早くみんな諦めればいいものを。

 

「さいのうなんて、ないのに」

 

しかし。

ぼんやりと呟かれた自分の言葉を、先輩がどんな顔で聞いているかなんて…。





【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。
防衛本能が働いた結果、感情が無になっている。
ずっとずっと幼い頃は、"あのウマ"に憧れたこともあっただろうけど。
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