さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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穏やかな顔の下は?



確信犯?

『走ろう!プレアー』

 

そう言って、僕の手を引くキミが、眩しくて、それ以上に…憎らしかったと言えばキミはいったいどんな顔をしただろうか。

キミなら、僕以外の誰かを選べたはずなんだ。

けど、僕以外のみんながそれを僕に譲ったから。

『アイツに付き合えるのはお前だけだよ』って、みんなが。

だから、僕はキミの隣で笑っていられたんだ。

けど、それももうおしまいだ。

 

『元気でね』

 

月並みな言葉だった。

第二のバ生に移るキミと、そのまま現役を続行する僕。

 

『うん』

 

同じように言葉を返すと、キミも、笑ってそう答えた。

…けど、僕は知っていたんだ。

本当は、キミがその言葉を言いたくなかったってことを。

だって僕はずっとキミの隣で笑っていたんだから。

そしてその事実(かこ)は、これからも変わらないから。

 

『最後にさ、走ろうよ!』

 

そう言って僕の手を引くキミは、やっぱり眩しくて……そして、憎らしかった。

 

 

ずっと大人しい性格なんだと思っていた。

だって、キミはいつも誘いをかける僕の言葉に頷いて静かに着いてくるばかりで。

けど、違った。

 

『はははっ!』

 

心から、朗らかに。

笑っている、姿。

ずっと隣にいたのに、それでも見たことがない顔が、僕以外の前に晒されていた。

 

『やったな!』

 

そう言って笑うキミを、僕は見たことがなかった。

 

『よし、あったりぃ!』

 

なんて、楽しげに、年相応に笑うキミを、僕は知らなかった。

 

『ほら!早く早く!』

 

そう言って走るキミを、僕は知らなかった。

そんなキミの一面を知った時、僕が抱いた感情は……嫉妬だった。

どうして僕以外の奴にそんな姿を見せるの?

なんで僕には見せてくれなかったの?

そんな自分勝手な感情が渦巻いて、そして…。

 

「どうしたの?」

 

不思議そうな声にハッとする。

目の前には自分を覗き込むキミの顔。

「どこかに意識飛んでたね」と、頬を撫でてくる手に擦り寄れば、くすくすと。

 

「ご飯できたからさ、呼びに来たんだ」

「そっか」

 

もう交わることはないと思っていたはずの日常が交わって。

共に食卓を囲むことが珍しくなくなった現状に未だ慣れない。

 

「今日は和食にしてみたよ」

「いただきます」

「……いただきます」

 

手を合わせて、ふたり揃って食事を始める。

目の前に広がるのは、キミが作った料理の数々。

どれもこれもが美味しそうで、思わずゴクリと喉が鳴った。

 

「美味しい?」

「うん」

 

ふたりで囲む食卓はなんだか不思議だ。

だって僕はひとりで食事を摂ることも珍しくなくなっていたから。

それに料理もどちらかと言うと不得手で…。

子どもたちがいたころはお手伝いさんを雇っていたりもしたのだけれど。

 

「洗濯物は畳んでおいたから、自分で元の場所に戻しておいてね」

「ん」

「そんな顔しなくても、すぐまた来るよ。…まったく、キミってヤツは僕がいないとダメダメだなぁ」





【英雄】:
重…。
家事が不得手なのは本当だが、それを差し引いてもシレッと【銀の祈り】をひっとらえている。
穏やかな顔してやる時はやる。
しかし、こっちもこっちで相手がなに思ってるかよく分かっていない鈍感仕様な模様。
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