甥っ子が凱旋門賞に挑戦することになった。というわけで僕も先生と一緒に観戦に来たのだけど、
「あ、はい。ありがとうございます〜」
ここら辺の土地にも僕の子どもがいるからか、たくさんの人に話しかけられてもう既にヘトヘトである。
子どもたちも僕に会いたいとばかりにじゃんじゃかと連絡が来るので仕方なく携帯の電源を落としたし。
「始まるみたいだぞ」
「あ、はい」
*
僕の甥っ子であるシルバーチャンプはそこまで僕に似ていないと思う。
どちらかというと僕の父と母によく似ている。
彼の父であるオグリくんも彼の母である僕の妹もどっちかというと大人しくておっとりとした性格だし。
なんかチャンプくんがよく喧嘩しそうになってるって子どもたちから聞いたこともあったしな〜。
「まぁ、闘争心があることはメリットではあるのだけど…」
チャンプくんの脚質は差しと追込みだ。
トレセン学園に入った当初は逃げでやっていたらしいのだけど、試行錯誤した結果作戦をそのふたつに落ち着かせたのだという。
「あ、手振ってる」
眺めていると出走するらしい子どもの内の一人が僕を見つけて手を振ってきた。
それに手を振り返すと嬉しそうにゲートの方へと走っていく。
「…どうなるかなぁ?」
*
今日の凱旋門賞に出走するにあたって、何度も叔父が出走した時の凱旋門賞の映像を見ていた。
そのせいかは知らないが走っている途中に叔父の幻影を見た気がする。
痛む脚を抱えながら半ば現実逃避としてそんなことを考えていた。
その時、
「叔父さん…?」
乱雑に扉の開く音がして叔父さん-シルバーバレットが現れた。
「馬鹿かお前は!」
「えっ!?」
つかつかと歩いてきた叔父さんが俺の胸倉を掴み上げる。
ガクガクと揺さぶられながら「脚が不調だったらしいが何であんな走りをした」と言われて、負けた悔しさが残っていた俺は苛立ちを乗せて言い返したが、
「死んだらどうする…!」
叔父さんが泣いていて二の句が告げなくなった。
「馬鹿。馬鹿がよ…」と叔父さんが胸を殴ってくるのにもどう対応したらいいか分からなくて、混乱から思わず叔父さんの頭を撫でてしまった。
*
凱旋門賞2着。
その結果は惜しかったと思う。
だがそれ以上に、走り終わったあとのチャンプくんの足取りがぐらついたことに背筋が冷えた。
先生が呼び止めるのも聞かず、彼がいる控え室に走って感情のままにいろいろと言ってしまった。
怖かった、と同時に現役時代の僕も周りにこう思わせていたのかと思うと申し訳ない気持ちになったり…。
まぁ…それはそれとして、
「えっと、あの…子ども扱いしないでくれる、かな…?」
「あっ。……サーセン」
僕:甥っ子&出走してた子どもを応援してた。
死力を尽くしたせいで足取りがふらついた甥っ子に青ざめるし、心配からキレちゃうおじさん。
まぁコイツもコイツで現役時代は怪我が多かったんですがね…。
甥っ子:凱旋門賞に出走した。
イメージ構築のために叔父が出走した回の凱旋門賞のビデオを何回も見たせいか、本番走っていた時に叔父の幻影を見た気がする、らしい。
自分を心配した叔父が泣き出したがどうすることもできず頭を撫でていた模様。