なぜ、その名前をつけたの?
『バレット』
そう呼ばれるのが、嫌いだった。
何を思って、父はこの名前をつけたのだろう。
我が母の、兄の名前の一部を。
「
「兄さん」
ぼんやりと思考に浸っていると兄のひとりであるヒーロシアトリカルが声をかけてくる。
その名の通り、ヒーローみたいなウマが。
「なにかあったのか?」
「……いいや、なんでもないよ」
僕は首を振って答える。
どうせ話したところで、解決するようなことじゃないし。
そもそも、この話を他人にしたところで何も変わらない。
「ただちょっと、考えごとをしてて」
「…そうか」
言葉を濁して、誤魔化して。
そうするとポンと頭を撫でられてはいつものように「困ったら兄ちゃんに言えよ」と。
「うん……」
「それと、ほれ。これやるから元気出せ」
「わっ!?」
兄さんの手から放られたのは僕が好きなパン屋のアップルパイ。
ぼくはそれを受け取って、「ありがとう」とお礼を言ってからそれを口に入れる。
甘い味が口内に広がる。
そういえば今日はまだなにも食べていなかった。
もぐもぐと口を動かし、喉の奥へとパイを飲み込む。
そして一言。
感想を口にする。
その言葉を聞いて、兄さんはとても嬉しそうな顔をした。
*
与えられた名前が重い。
父はかの七冠バ・シンボリルドルフ、母はシルバフォーチュンという少しばかりトゥインクルシリーズをかじっていれば誰もが知っているというほど有名な名前だ。
その子どもともなれば、当たり前のように期待がかかる。
だけど、ぼくはそれに応えられなかった。
いや、応えるだけの実力がなかったのだ。
皐月賞もダービーも菊花賞も、すべて
結局、クラシック級のあいだは一度もGIを獲れなかった。
…朝日杯を勝って期待されていたというのに、ね。
「……はぁ」
自室に戻り、ベッドの上に腰掛けながら溜め息をつく。
窓の外を見るとすっかり夜になっていて、星々が瞬いていた。
もう寝ようかな、と思って立ち上がるとノックの音が聞こえ、
「はい?」
「俺だよ、シアトリカル」
「兄さん?」
扉を開けるとそこにはいつものようにヒーロシアトリカルがいた。
片手を上げて、ニッコリと微笑む姿はなんだかとても絵になるような光景だった。
彼は手に持っていた箱を掲げる。
「お前、今日誕生日だろ?」
「…あ」
「はは。忘れてると思って持ってきた甲斐あったな」
呆然としている僕を見て兄さんが笑う。
そうだ、今日は自分の誕生日だったんだ。
最近はそんなことも気にしていなかったけど、そう言えばまた後日父さんがどこかへ連れていってくれると言っていた気がする。
…なるほど珍しいこともあるもんだと思っていたが僕が誕生日だったからか。
すっかり頭の中から抜け落ちていたけど。
「誕生日おめでとう、──
「うん、ありがとう兄さん」
【シンボリの弾丸】:
バレットシンボリ。幼名【
父親と瓜二つ(父親より流星がちょっとデカめ)。
父シンボリルドルフ母シルバフォーチュン。
2002年生まれの鹿毛牡馬。バリバリの王道先行バ…だったが?
適性は芝AダG。短GマA中A長A。逃A先B差E追E。
主な勝ち鞍は朝日杯FS(2004).ゴールドカップ,ムーラン・ド・ロンシャン賞,BCターフ(2006).ドバイシーマクラシック,天皇賞・秋(2007)
実力があるにはあるのだが同期が某【英雄】なのと父と伯父のネームバリューのせいでいつも顔が青白いウッマ。
周りの期待が高過ぎてストレスとSAN値がヤバい。
あと自己肯定感もヤバい。
父さんは何で自分にこの名前をつけたのだろう、と暇さえあれば考えている。
ちな父であるシンボリルドルフと瓜二つの容姿ではあるが非常に穏やかな性格。好物は林檎(甘ければ品種は何でもいい)。
なおいちばん仲のいいウマは半兄であるヒーロシアトリカル(父ミスターシービー)らしく、現役時に顔合わせはなかったが種牡馬入り後から仲良く…。ずっと仲のいい兄弟。そのため片方が傍にいないとしょぼくれるので馬房も放牧地も隣同士だった。
【演劇的ヒーロー】:
ヒーロシアトリカル。【シンボリの弾丸】の半兄。2000年生。
常にストレスなどでギリギリしているかわゆい弟を支えている系お兄ちゃん。
弟が自分の名をあまり…と思っているのを知っているのでもっぱら幼名の【
その名の通り明るくてヒーローみたいなお兄ちゃんです!…多分。