引退後のヒーロシアトリカルとバレットシンボリの話。
引退後の俺は仕事の関係で弟であるバレットシンボリと同居している。
穏やかな性格の弟なので喧嘩したりだとかないのだが、
「ぅ゛…げほ、…っ゛!」
「…
どこもかしこも真っ暗な深夜。
そろそろ眠るかとパソコンを閉じ、ベッドに入ろうとした時に聞こえてきた物音。
「ヘーキか?」
「だ、だいじょ…ぅぶっ゛!?」
これは弟の、ある時からの癖だ。
ボタボタと水面に胃液が落ちていっているのを眺める。
最初は風邪でも引いたのかと思ったが、いつしかこれがそうではないことに気がついた。
弟のコイツは人当たりがよく、顔もいい方だ。
だから周りにはたくさん人がいて、人気者だったんだが……。
ある日を境に、コイツは
考えてみればその原因は、
『あの【皇帝】の息子!』
『これなら三冠も夢じゃ…!』
テレビの中の、周りの、騒ぐ連中にあったんじゃないかと思う。
結果が出れば人は更に上を求めるし、それに見合うだけの期待をする。
そんなプレッシャーに耐えかねて……。
いや、その前に俺はもっと早く気がついていてよかったはずだ。
だって俺はコイツの兄貴なんだから。
引退して遠に何年も経った今になっても、バレないように家のトイレで吐くくらい追い詰められている弟に気がつけないなんて兄失格じゃないか。
と思っても、
「……悪い」
俺なんかが何かを言ってどうにかなるわけじゃないのは、もう嫌というほど知っている。
「…謝らなくていいよ。心配かけてごめんね」
だから俺は、せめてもの罪滅ぼしとして弟が吐いている間そばにいることに決めた。
なので今日もできるだけ優しく背をさすってやる。
「ぅ、おぇ……ッ!……っふー…………」
そうして暫くすると落ち着いてきたのか、何も出なくなったころを見計らって声をかける。
「立てるか?洗面所行こうぜ」
「うん…」
ふらっ、とよろめく体を慌てて支え。
見慣れてしまった青白い顔に顔をしかめる。
……どうすれば、お前は救われるんだろうか。
*
______ むかしむかし、とあるウマに憧れた少年がいた。
しかし彼は、そのウマに指の先ひとつ届かないまま夢を諦めてしまう。
だがそれでも彼の心の中には確かに憧れがあって、その気持ちだけがずっと残っていた。
…重い重い、『期待』という重圧に押し潰されそうになっていく日々の中でさえ、その夢は消えることなく、むしろ大きくなってゆくばかりだった。
それは、
「……あぁ、」
引退した今となっても、変わらず…。
【シンボリの弾丸】:
バレットシンボリ。幼名は
いつも顔が青白いし、ストレス故に吐き癖がありそう(偏見)。
でも周りを心配させたくないので自己解決しようとしては同居している半兄・ヒーロシアトリカルにバレている。
穏やかな性格。だがコイツもコイツで"あるウマ"に脳焼きされてらっしゃるので…。
【演劇的ヒーロー】:
ヒーロシアトリカル。お兄ちゃん。
半弟であるバレットシンボリのことを心配して同居&面倒を見ている。
半弟が"あるウマ"に脳焼きされていることをしっているし、その脳焼きが半弟が今こうなっている原因と気づいているので…なすがた。
救えないなら、せめて傍に。