舞台を見つめる、あなたを見つめる。
"観劇の間にバ生をやってるようなウマ"。
それが我が兄であるテイエムハギョウであった。
昔からトゥインクルシリーズのレースを、ウイニングライブを見るのが好きだった兄は自分が走るようになってからも変わらずに。
「相変わらず、傍観者みたいだね」
「ああ、まあね。僕はトロイと違って、勝ちたいと思って走ってるわけじゃないし」
「……そっか」
「そう言う意味では、僕は夢が無いんだろうなぁ」
自嘲気味に笑う兄はどこか達観しているように見えた。
兄は自分を観客だと思っている。
自分は、決してスポットライトが当たらない端役なのだと。
だからこそ、勝利への渇望がないのだろう。
…それでも、本気で走ることに対しては誰よりも厳しい。
自分の不甲斐ない走りで
その辺りのバランス感覚があるのは流石と言えた。
そんな兄の走り方は、ひどく美しい。
話を聞けばフォームをビデオで撮られ教材とされたほどだという。
「だって、僕はエキストラだもの。ならば走り方ひとつとっても汚くあっちゃあいけない。だろう?」
兄はこう言って当たり前のように笑っていたけれど、僕は知っている。
練習のあと、何度も何度も繰り返し走り方の復習をしていることを。
雨の日も風の日も、雪の日も。
身体を痛めるほどの無理なトレーニングは一切していない。
それどころかオーバーワークは徹底的に避けている。
でも、
「……」
暗い部屋の中で、自分のフォームを擦り切れそうなくらい見やっている兄。
素知らぬ振りをしようにも、時折聞こえる独り言が痛々しく。
しかし声をかけることなど……。
・
・
・
物心ついた時には、もう既に家に残っていたトゥインクルシリーズのビデオを見て、生きていた。
家にあったビデオはもっぱら"とあるウマ"のレースで、幼き日の僕は何度も何度もそのビデオを見て。
お世辞にも画質がいいとはいえない映像。
けれど、たったひとり先頭を走っている"とあるウマ"のすがたに。
その表情からはその速さに至るまでの辛さなど微塵も感じられず、むしろただただ勝利を望む眼だけがあって。
…衝撃的だった。
まるで雷に打たれたかのように。
そして、いつしか気づいた。
自分に画面の中の"あのウマ"のような才能がないことに。
だから、
「僕は元から観客側の人間だから。…此処にいれただけで、幸せなんだ」
*
兄さんは、諦めている。
自らの道を、自分自身を、未来そのものを。
それはあまりにも悲しく思えた。
僕は兄さんの走る姿が好きだ。
だけど同時に、心の何処かではずっと願っていたのだ。
──どうかこの人には光が当たって欲しい、と。
なのに、
「頑張ってね──トロイバックドア」
笑いながら、舞台袖に引き上げる背に、僕は…。
【覇業の観劇者】:
テイエムハギョウ。
父テイエムオペラオー母シルバフォーチュン。
2004年生まれの栗毛牡馬。脚質は先行or差し。
適性は芝AダG。短GマE中A長A。逃D先A差A追F。
主な勝ち鞍は弥生賞,青葉賞,京都大賞典(2007)
トゥインクルシリーズのレースやウイニングライブを見るのが好きなウマ。
史実時代から走行フォームがとても美しい、が末脚が強過ぎたせいで脚に負担がかかり早期引退→種牡馬へ。
レースのことを「舞台」、自らのことを「エキストラ」「端役」と称する。
ちないちばん好きなウマは幼いころから見ていたビデオに映っていた"とあるウマ"とのこと。
【変幻自在の大奇策師】:
トロイバックドア。
父アグネスデジタル母シルバフォーチュン。
2005年生まれの栗毛牡馬。脚質は自在。
適性は芝AダA。短BマA中A長C。逃A先A差A追A。
主な勝ち鞍は朝日杯FS,全日本2歳優駿(2007).ジャパンダートダービー,BCマイル,香港ヴァーズ(2008).クイーンエリザベスⅡ世C,BCダートマイル(2009)。
そこまでトゥインクルシリーズに興味はないが兄であるテイエムハギョウに付き合っていたので結構知識がある。
テイエムハギョウの走りが好きだったから、彼本バに彼自身を「エキストラ」だとか「端役」だとか言わないで欲しかった弟。
なお件の"とあるウマ"に対してライバル視的な感情を持っているとか、いないとか…?