さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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クソデカ感情。



愛しの傷

意外と。

【飛行機雲】というウマは、怖かったりする。

普段は人懐っこい後輩ではあるが、…一度機嫌を損ねてしまえば。

 

「せんぱい」

「ん〜?うおっ!」

 

くるんと回る視界。

そして見えるようになるのは見慣れた天井と、目が据わっている【飛行機雲】。

 

「せんぱい、ぼくおこってます」

「お、おう」

「でも、ゆるします」

「へ?…っぐ!?」

 

首元に鋭い痛み。

思わず目を見開けば、ギギギ…と強められる咬合力。

 

「せんぱい、えへ」

「……っふ……」

「かわいい…」

 

鋭い痛みは、首筋から鎖骨へ。

そして……。

【飛行機雲】の牙が、喉仏の辺りを正面から噛んだ。

 

「せんぱい、」

「……っふ……」

「いい子ですね……」

 

伸びてきた指が傷跡をなぞり、また伸ばされた舌がそこを(ねぶ)る。

見事に噛み破られたせいか、ザラザラとした舌の感触から伝わる痛みが脳髄を焼いた。

 

「…クソいてぇ」

「…」

「手当て」

「……はい」

 

ぼた、と涙が零れる。

痕、残らなけりゃいいなぁと現実逃避気味に考えた。

【飛行機雲】の眼は、いつ見ても綺麗だけれど。

 

「せんぱい」

「ん?」

「ごめんなさい」

「……おう」

「ゆるして、くださいますか?」

「もちろん」

 

にへら、と笑う後輩が可愛くて仕方がない。

……でもまぁ、怒ったにせよ首に嚙みつかれるのはごめん被りたいなとぼんやり思った。

 

 

あの日、僕がつけた傷は先輩の首元に残った。

よくよく近づいてみなければあるかどうか分からない程度の痕ではあるが、……それがたまらなく嬉しくて。

 

「なに」

「いえ、」

 

指先でその痕をなぞる。

するとくすぐったそうに、先輩が身をよじるのを見てまた嬉しくなった。

 

「せんぱい、」

「ん?」

「……大好きです」

「俺も好きだよ」

 

くすくすと笑いあって、もう一度首筋の傷をなぞった。

 

【飛行機雲】は、いつもニコニコしている。

でも時々……そう、本当にたまにだが。

 

「せんぱい?」

 

怖い顔をする時がある。

それは決まって俺が怪我をしている時だったり、疲れている時だったりで……まぁ要するに心配されているのだろうと思うのだけれど。

 

「せんぱい」

「ん?」

「……ごめんなさい」

「おう」

 

ぽた、と零れる涙。

今回も傷口に沁みて痛いなぁと思いながらも、その涙を指先で拭った。

 

「せんぱい、いたい?」

「痛くないよ」

「……うそつき」

 

じわり、また涙が溜まる。

……可愛いなと思いながらもその涙を拭ってやれば、【飛行機雲】はへにゃりと眉を下げた。

 

傷は、増えていく。

止めようと思えば止められるだろうが…。

 

「…」

 

撫でた傷は、今日も痛かった。





独占欲かなぁ?
たぶん【銀色の激情】の体には噛み跡がたくさんあると思います。
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