さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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捧げる、から。



前だけ見る人

振り返っても、───後ろには『夢』がない。

 

だから我らは駆けていくのだろうか、とどこか詩的な考えをする。

僕だってそうだ。

後ろを向いてもあるのはどうせ、自分が踏み潰してきた『夢』の骸だけだろう。

または自身の足跡の形をした赤錆色か。

…たぶん決して綺麗なものではない。

それでも前を向くしかないのだ。

 

「……」

 

僕はゆっくりと目を開く。

目の前にあるのはいつもと変わらぬ光景。

慣れたように立ち上がり、着替えて、適当に食事をすませて、朝のトレーニングをしに学園へと。

ひとり暮らしの身であるから、多方のところは気楽だけれど遅刻うんぬんは自分の責任なのだから面倒なことこの上ない。

ただそれももう慣れたことだからブーブー言うこともない。

 

「さぁて……」

 

ドアノブに手をかける。

そして扉を開きながら一言呟いた。

 

「今日も頑張るか」

 

 

誰も見ない目だった。

前だけしか見ない、目だった。

ずっと、あるかどうかも分からない"先"を見ては頑なに信じるような。

そんな目をしていた。

その瞳には確かに何かが映っているようだったが、それが何なのかまでは分からなかった。

けれどそれはきっと……いや確実に『夢』と呼ばれるもので。

あの子はそれを胸に抱いて走っていた。

まるで見えないゴールテープを切るかのように。

誰かの夢を叶えるために、祈りのままに。

自分を賭した走りをしているように見えた。

それが……怖くて。

また、どこかに行くんじゃないかって。

だから、振り向かせたかった。

───"未練"になりたかった。

 

振り向かざるを得ないくらいの。

それぐらい、求められるほどの。

進まないで、止まってと手を伸ばして。

追いかけても追いつけなくて。

いつか、本当に消えてしまう気がして。

その時自分は何を思うのか。

それを想像すると怖くなった。

 

「…どうしたの?」

 

何も知らないキミが振り向く。

心配そうに見つめてくる。

あぁ、やっぱり自分は……。

 

『なんでもないよ』

 

───自分だけのモノにしたいな。

結局、考えることはソレだ。

独占欲ってわけじゃないけど、自分のことを考えてほしかった。

他の人なんか見てほしくはなかったし、自分以外の人と話さないでほしいとも思った。

でも、それは無理だと分かってる。

だから自分は願うことにしたんだ。

神様なんて信じていないけれど、もしもと。

 

………自分が祈るのは"あの子"にだけだ。

神様なんて、いるかいないのか分からないものよりも、確固として居るキミに。

どうかキミだけに。

祈りを、願いを。





後ろを振り向かない誰かと、振り向いて欲しい"未練"になりたい誰かの話。
少しだけでも、ほんの少しでいいから、立ち止まって欲しくて。
追いつきたいとは言わないから、(しるべ)でいてほしかった。

そんな話。
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