さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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秘密。



愛してしまったの

「げほっ!」

 

荒い息で起き上がる。

口元を手で押さえると、もっと吐き気がするようで慌ててトイレへと駆け込んだ。

その慌て具合は寝ていたソファーの近くにあったゴミ箱を容赦なく蹴ってしまうほどだったから、余っ程だろう。

そこそこゴミが入っていたゴミ箱だったのであとが面倒だなと思いつつ、勢いよくトイレに入ってはうずくまった。

 

「ぉ、え゛ぇ…!」

 

喉の方に指を突っ込んで、吐く。

とはいえ出るのは既に胃液ばかりであり、喉が焼けるように痛い。

 

「げほっ、ごほッ!っは……はぁ……」

 

咳き込むとまた吐きそうになって慌てて止める。

吐き気が止まらない中、それでもトイレに籠って吐いていれば多少は落ち着いてきた。

 

「はぁ、」

 

吐きダコがまだ出来ていないだけマシだが。

でも、バレるのは時間の問題だろう。

お医者さまからも精神を安定させるために"ソレ"から離れろと口酸っぱく言われている。

 

「はぁ……」

 

でも、無理だ。

だって、あの『夢』は。

 

「っ!……ぁ、」

 

自分の声で目が覚める。

またあの夢だ。

いつも同じところで目を覚ます。

その"いつも"というのがいつなのか覚えていないのに、いつもと同じなのだと言うことだけはわかるのだ。

 

「……」

 

ソファーから下りてカーテンを開けると陽の光が差し込む。

もう朝か……と思いつつも、今日は平日なので色々とせねばならないことがあるのを思い出す。

 

「…がんばろ」

 

 

だって、愛してしまったから。

"ソレ"は俺にとって、愛でもあり呪いでもあった。

ティーンエイジャーに背負わせるには重すぎたものだったけれど、それでも結果的にはその重さを愛してしまったから。

だから、

 

「うぇ゛…」

 

苦しめ、られている。

愛情を、返せなかった。

呪いは、解かれなかった。

 

「げほッ!ごほ!」

 

噎せる。

苦しい、辛い。

でも、これは俺の罪だから。

"ソレ"は愛だったけれど、呪いでもあったのだ。

 

 

久しぶりに後輩の家に行くと、後輩がぶっ倒れていた。

見るからに顔色は悪いわ目のクマが酷いわで、これは何かあったなと察する。

 

「おい後輩」

「……先輩?」

「おう、久しぶり……って程でもないか。お前大丈夫か?顔色悪いぞ」

「あー……大丈夫っすよ」

「大丈夫って顔じゃねぇから言ってんだよ。なんかあったのか?」

「いや……」

 

言い淀む後輩にため息を吐きつつ、とりあえずはキッチンを借りることにする。

勝手知ったるなんとやらで冷蔵庫を開けて食材を取り出していくが、ふと違和感を感じた。

 

(あれ…?)

 

いつもあるはずの常備菜とかがない。

後輩はマメだから栄養とかそういうの考えて、って。

 

「なぁ後輩」

「はい?」

「お前、最近飯食ってるか?冷蔵庫の中がすっからかんなんだが……」

「あー……ちょっと色々あって買い物行ってないんで……」

「じゃあなんか買ってくるか?」

「……いや、いいっす」

 

頑なに断る後輩に違和感を覚えつつ、とりあえずは野菜たっぷりのコンソメスープを作ってやることにする。

 

「おら食え」

「…あざっす」





【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。
愛してしまった。
だからそれが愛でも呪いであっても受け入れる。
でも確実にそれらは精神にダイレクトアタックかましてるので…。
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