牙はどこへ?
いつか世界が終わるとすれば、それは貴方が死んだ時だろう。
子どもたちである自分たちよりもずっと華奢で、でもその背中は誰よりも頼りがいがあって。
何があるか分からない一番前を率先して歩いてくれて、導いてくれる。
指針であり、光であり、道しるべ。
「だから、貴方が死ぬときは僕たちの命が終わった時です」
「────」
「貴方のいない世界になんて興味ありませんから」
「……はは。そうか……」
それは……困るな。と、
*
彼ら彼女らにとって、彼ら彼女らの父というのは確かに『救い』であり、『神』ではあったのだが。
そう簡単に願いが叶わないのと同じように彼ら彼女らの父もまた、自らに向けられる想いに、
すべてを家族愛だと思っていて、みんなが自分と同じ気持ちを抱いていると思っている。
誰かが傷つくような諍いなんてあるわけがなくて、みんなが仲良く笑っていられると信じて疑わない。
だって、そうであったなら──それはきっと素敵なことだから。
「────」
「…? どうしたの?急に黙り込んで」
「いえ……貴方も随分と変わったなと思いまして」
「僕が?」
「ええ。昔はもっとこう……傲慢で自分勝手でしたよ貴方は」
「……そうかなぁ?」
自覚がないのか、本当に不思議そうに首を傾げる彼に、右腕であり、彼の子であるシロガネハイセイコはため息をこぼす。
…あんなにも、ギラギラしていたのに。
やさしさの奥深くに、恐ろしいまでの闘志を隠していたというのに。
今はまるで、牙を折られた獣だ。
(あの頃なら)
そう思わずにはいられない。
あの頃であれば、まだかろうじて自分たちを見てくれていたのに。
それが品定めであっても、見てくれていたのに。
……彼が、変わってしまったのはいつからだろう。
「ハイセイコ」
「……はい?」
「キミはさ、僕のこと嫌い?」
唐突な質問だった。
あまりに唐突で、思わず言葉に詰まる。
「僕はね、キミたちのことを愛しているよ」
「……」
そんな反応を見てか、彼は言葉を続ける。
いやに真剣な面持ちで告げる彼に対して、シロガネハイセイコは無言で返すしかなかった。
(なにを今さら)と、思ってしまうから。
──愛してるなんて、そんな言葉を。
「そう、ですか」
「そうだよ〜」
クスクスと父が笑う。
シロガネハイセイコの気持ちを知らないまま。
誰の気持ちも理解せぬままに、今日も今日とて…。
「あ、そろそろ小さい子たちが帰ってくる時間だね。おやつの準備しないと」
僕:
シルバーバレット。
歳を経るごとに大人しくなってる系ウマ。
品定めしてたのが博愛になっちゃった…みたいな。
でもそれを喜ぶ子どもたちではないんですよね。