さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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牙はどこへ?



博愛主義の獣

いつか世界が終わるとすれば、それは貴方が死んだ時だろう。

子どもたちである自分たちよりもずっと華奢で、でもその背中は誰よりも頼りがいがあって。

何があるか分からない一番前を率先して歩いてくれて、導いてくれる。

指針であり、光であり、道しるべ。

 

「だから、貴方が死ぬときは僕たちの命が終わった時です」

「────」

「貴方のいない世界になんて興味ありませんから」

「……はは。そうか……」

 

それは……困るな。と、(かれ)は小さく笑った。

 

 

彼ら彼女らにとって、彼ら彼女らの父というのは確かに『救い』であり、『神』ではあったのだが。

そう簡単に願いが叶わないのと同じように彼ら彼女らの父もまた、自らに向けられる想いに、()()気がつくことはなかった。

すべてを家族愛だと思っていて、みんなが自分と同じ気持ちを抱いていると思っている。

誰かが傷つくような諍いなんてあるわけがなくて、みんなが仲良く笑っていられると信じて疑わない。

だって、そうであったなら──それはきっと素敵なことだから。

 

「────」

「…? どうしたの?急に黙り込んで」

「いえ……貴方も随分と変わったなと思いまして」

「僕が?」

「ええ。昔はもっとこう……傲慢で自分勝手でしたよ貴方は」

「……そうかなぁ?」

 

自覚がないのか、本当に不思議そうに首を傾げる彼に、右腕であり、彼の子であるシロガネハイセイコはため息をこぼす。

()()

…あんなにも、ギラギラしていたのに。

やさしさの奥深くに、恐ろしいまでの闘志を隠していたというのに。

今はまるで、牙を折られた獣だ。

 

(あの頃なら)

 

そう思わずにはいられない。

あの頃であれば、まだかろうじて自分たちを見てくれていたのに。

それが品定めであっても、見てくれていたのに。

……彼が、変わってしまったのはいつからだろう。

 

「ハイセイコ」

「……はい?」

「キミはさ、僕のこと嫌い?」

 

唐突な質問だった。

あまりに唐突で、思わず言葉に詰まる。

 

「僕はね、キミたちのことを愛しているよ」

「……」

 

そんな反応を見てか、彼は言葉を続ける。

いやに真剣な面持ちで告げる彼に対して、シロガネハイセイコは無言で返すしかなかった。

(なにを今さら)と、思ってしまうから。

 

──愛してるなんて、そんな言葉を。

 

「そう、ですか」

「そうだよ〜」

 

クスクスと父が笑う。

シロガネハイセイコの気持ちを知らないまま。

誰の気持ちも理解せぬままに、今日も今日とて…。

 

「あ、そろそろ小さい子たちが帰ってくる時間だね。おやつの準備しないと」





僕:
シルバーバレット。
歳を経るごとに大人しくなってる系ウマ。
品定めしてたのが博愛になっちゃった…みたいな。
でもそれを喜ぶ子どもたちではないんですよね。
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