ワケじゃない。
泥のような安寧。
それが、少し怖いと思った。
『幸せ』であるのだから、抵抗せずに受け入れればいいものを、それまでの人生とやらがそこそこに過酷だったせいか、泥に塗れるような生き方をしてきたせいか、それが怖い。
きっと、それを受け入れてしまえば、自分は弱くなる。
それはダメだ。
今までずっとそうしてきたように、これからもそうしていかなければ生き残れないのだから──!
「────」
ふと気付くと、マブダチが心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「バレット……? もう用事終わったけど、…体の具合悪いか?」
「え……?あ、 ああ、大丈夫。少しぼうっとしてただけだから」
……何をバカなことを考えているのか。
そんな七面倒臭い考えごとなんてひとりの時にするものだろう。
なに友人に心配をかけているのだ。
「……」
「わっ、」
「変なこと、考えすぎんなよ」
「…うん」
僕の方が歳上なんだがな、と思わなくもないが、今は素直に頷いておく。
……まったく、このマブダチは妙なところで鋭いから困るな。
「それで?用事ってなんだったの?」
「ああ、」
少し照れ臭そうに頬を掻くと、友人は言った。
*
俗に言う、『幸せ』というものを感じると、俺の友人はひどく居心地の悪そうな顔をする。
まるで自分がそこにいるのが似つかわしくないような、もっと
……それが、とても気に入らない。
「バレット……?もう用事終わったけど、…体の具合悪いか?」
だから俺は、いつものように、そう声をかける。
すると友人は、少し照れ臭そうに頬を搔いてから、あいまいに頷くのだ。
──ああ、それでいいんだ。
そんな気持ちを込めて頷いてやると、友人はいつも通り安心したように笑う。
その笑みを見ると、俺も安心するのだ。
ああよかったと。
こいつはまだ
手首にあった引っ掻き傷も、最近はマシになった。
ひっきりなしに噛んでいた指の皮も、何とか再生してきている。
……本当に、よかった。
・
・
・
『幸せ』を感じると居心地が悪くなるのだと、いつかある時友人は言った。
それはきっと正しいのだろう。
幸福を素直に受け止めれば受け止めるほど、自分の罪が重く感じるだろうから。
そんな罪悪感を抱えたまま生きるなど、地獄以外の何ものでもなく、またこの友人はその地獄に耐えれてしまうから。
だから、これでいいのだ。
このままでいいのだ。
こいつには罪などないのだから、幸せを素直に享受していればいい。
それができないのなら、俺がその分幸せに──!
僕:
シルバーバレット。
安寧がこわい。
なので無意識に『幸せ』を感じると…したりとか。
でも隠すのが上手いので気づかれることはそうないらしい。