さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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あなたの未来が、見たかった。



その輪っかは、甘いミルクのにおいがした。

ひとりの時に、ドラマを見るのが好きだった。

家族の前では決して見なかったが。

紆余曲折の困難あっての幸せは、架空だと分かっていても己の心をどこか暖かくして。

そうするたびに、朝起きたくなくなった。

どれだけ外が朝を告げようとも、来た朝を怨むように。

 

「……」

 

目を細めた先には、薄らと影がある。

四肢があって、笑えるぐらいに綺麗な輪っかを頭を上に携えて。

───嗚呼、たしかに。

間違いなく。

 

「アンタは、アタシの天使だ」

 

今もなお思い出す。

自分の『幸福』の定義が覆されたあの日を。

ゆっくりと開いたその瞳がアタシを見て。

ふにゃ…って、嬉しそうに笑ったの。

それまでの自分の欲が総て奪われて、お前のために生きようって、思うほどに。

 

「───」

 

今でも夢に見る。

あの日の光景を、いつまでも忘れられないでいる。

 

「……おいで」

 

佇んでいた、影を呼ぶ。

キラキラ輝く頭の輪っかは、微かにミルクの匂いがした。

 

 

影がある。

付かず離れず側にいて、アタシを見守る。

あぁ、そういえばアンタとだけは一緒にドラマを見ていたっけ。

冷たい床は足先を着くことも嫌になるほどで。

ぬくぬくと暖かい場所で微睡んで、その寒さを忘れようとする。

 

「───」

 

ふと、声が聞こえた。

懐かしい声だ。

もうずっと聞いてなかった、アタシの愛しい███の声。

 

「……なに?」

 

振り返れば、そこにはもう誰もいなかった。

当たり前だ。

だってここは悪夢(げんじつ)の中だから。

 

「───」

 

けれど。

また声が聞こえる。

今度はさっきよりも近くからだった。

どこだ?

どこにいる?

なにを言っている?

……分からないけど、なんだかとても悲しくなったんだ。

 

「ぜんぶ、いやだ」

 

何もわからない。

それが、嫌だ。

胸を占める、この感情。

それが、嫌だ。

嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!!

 

微かに甘い匂いのする、あの輪っかが恋しい。

その輪っかを抱くアンタを、

 

「いっそ」

 

 

天使の輪っかを持つ影は、目の前の女を抱き締めた。

さみしそうな顔をしながら、ぎゅうと、たしかに。

普通の人には見えない自分を求める姿が、とてもじゃないけれど。

 

『……』

 

自分を見ることができてしまっているからか、他が見えなくなってしまった彼女に、影はキスを落とす。

おでこへ、祝福を。

『しあわせ』になってほしいから。

それだけが、望みだから。

 

『……』

 

謝ることも、もうできやしないから。

 

『……███』





そばにいるよ。
でも、もう、そろそろ……。
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