わすれないでね。
忘れられるのは悲しいことだ。
基本なにも気にしない僕でも『忘れられる』のはちょっと堪える。
いやまぁ確かに?自分が遠に昔の存在になっているのは分かっているけど?
でも、悲しいものは悲しいし、辛いことは辛いのだ。
『だから、ね?』
『忘れないで』。
そう、謳うように囁くと自分と僅かながらにも繋がった各々がピクリと反応してくれる。
こうしてしか干渉できなくなってしまったのは何だかなぁ、と思わなくもないがこれしか手段がないから仕方ないのか。
『忘れないで』とは言ったけど、それは別に強制ではない。
あくまでこれは僕のエゴだ。
ただ、そうして欲しいという願望でしかない。
でも、それでもいいなら……。
『僕も、キミたちのことを覚えているから』
……嗚呼、この感覚は久しぶりだな。
自分の存在を希薄にしていくようなそんな感覚。
段々と自分が薄れていくのを感じながらも僕は目を閉じたのだった……。
*
「っ!?」
何かを感じ取り思わず振り返るがそこには何もいない。
耳元で囁きかけられたような感覚はまさしく本物であったが、振り返ってもあるのは勢いよく振り返った自分を怪訝そうに見る周りの視線ばかり。
『忘れないで』
微かな、その一言。
それが頭の中で反響する。
「……」
……忘れたくないな、と漠然とそう思った。
・
・
・
───ん……。
ゆっくりと目を開く。
どうやら自分は寝ていたようだ。
……いや、寝ているという表現は適切ではないのかもしれないが。
まぁ、いいかそんなことはどうでも。
それよりもだ。
───……?
今自分がいる場所のことが気になる。
いや、別にこの場所自体は知っているのだが……ここは何処なのだろうか?
見覚えはあるようなないようなそんな曖昧な感覚だが、少なくとも自分の記憶の中にこんな場所はない。
───。
とてとてと歩く。
なにせ此処に座っていても事態が好転するわけでもなし、ならば歩いてみるのがいいだろう。
……というか、さっきからずっと歩いているのだが一向に景色が変わらないな?
───……。
そして歩き出してから暫くして、あることに気が付く。
それは『自分が何者であるか』だ。
名前も思い出せないし、此処が何処か分からない理由もなんとなくだが分かった。
───…………。
……どうやら僕は過去になってしまったようだ。
覚えている人が少なくなれば、希薄になるのもまた道理。
年月が経てば経つほど、…亡くなったりもするだろうし。
────…悲しいもので。
とはいえ、歩を止めることはできぬまま…。
でも、いつかは。