『運命』か、それとも……。
私-
白銀一族の始まりは江戸時代に遡る。
江戸時代、金は金貨・銀貨・銅貨と分かれており、また、高額な取引の場合、関東では「金」を、関西では「銀」を使う風習があった。
関西の両替商であった私たち一族の祖先はいつしか屋号を「白銀」とし、それが苗字になったらしい。
白銀一族はそれなりに大きな家だ。
金融業以外にもさまざまな分野に手を伸ばし、それを可もなく不可もなくといった具合に保っている家で、やらかしさえしなければ普通に生きていけるだろうぐらいには安泰な家だった。のだが、一度だけ危うくなったことがある。
それは私の父が競馬にハマったこと。
付き合いで競馬場に行った父は馬に魅せられ、自分も馬を持ち始めた。
今も使っている"シルバー"という冠名は白銀の苗字から取られたものだ。
しかし、父の買った馬はほとんど走らなかった。
それでも父は馬を買い漁るので最終的に家の者に止められて当主からご意見番となる形で実質引退させられ。
そして長男だった私が白銀一族のトップとなった。
はじめは馬主になる気なんてこれっぽっちもなかった。
逆に競馬なんて…と毛嫌いしていたくらいだ。
でも、その牧場に赴いたのは父が贔屓にしていたから。
戦前からある牧場だったが、もうその頃にはそんな面影もなく。
「ックソ!暴れるな!」
「押さえとくからさっさと乗せろ!」
そこで出会ったのが彼だった。
のちに"シルバーバレット"と名付けた小さな牡馬。
今にもトラックに乗せられそうになっている子馬と、今にも押さえる人々を殺さんとする馬を見て、私は気がつけば彼と彼の母であるホワイトリリィを買っていた。
そんなこんなで買った彼らを父の知り合いだという███牧場に預け、思いがけず私は馬主になった。
シルバーバレットはよく走る馬だった。
それでいて利口な馬だった。
私が牧場に行くといつも静かに近づき頭を差し出してきたのを思い出す。
理知的な光が宿る彼の目はいつも静かに私を見つめていた。
『おいで、
あの頃は長男である創もひどく大人しい子どもだった。
病弱な子であったから友だちもおらず、ひとり静かに本を読んでいるような子どもだったあの子を、私はシルバーバレットと引き合わせた。少しでも、少しでも世界が広がればいい、と。
「バレット」
……嗚呼、今もお前のことを思い出す。
死の間際に思い出すものが愛する妻子や孫でないのは不謹慎ながら笑ってしまうけれど。
バレット。
あの日、怖々とお前を撫でた創は私と同じように馬主になったぞ。
お前の甥が初めての持ち馬だと。
病床に伏す私にそう告げた息子の顔に引き摺られるように思い出す。
"シルバーバレット"という馬のことを。
「…バレット」
お前が初めて勝ったあの日のことを覚えている。
お前の脚を治してくれと土下座してまで懇願したこともあったな。
毎日王冠で、ジャパンカップで、凱旋門賞で、お前が勝った日のことを思い出すと今でも胸が熱くなるよ。
「……バレット」
…お前は私に夢を見させてくれた。たくさんの夢を、見せてくれた。
それでも、それでも、
「すまなかった」
あんな最期に、させる気はなかったんだ。
馬主さん:本名白銀仁(しろがねひとし)。
元は彼の父親が馬主だった。シルバーの冠名を父から引継いだ。
真面目な人であるため競馬をする気はサラサラなかったがシルバーバレットを見た瞬間、無意識に彼ら親子を買っていた。
そこから馬主デビュー。
(マス太がいる世界だったら、マス太は彼の父親が最後に買っていた馬ということで…)
最期まで心に残ったのは悲惨な最期を送らせてしまったシルバーバレットだった。
あの子は賢い子だったから人の言うことにちゃんと従った。
だから自分があの選択をしなければ、あの子は…。
その後悔だけは、最期まで。
死ぬまで競馬ゲームにシルバーバレットの出演許可を出すことはなかった。
馬主(息子):本名白銀創(しろがねつくる)。
幼い頃に出会ったシルバーバレットに惚れており、彼の甥であるシルバーチャンプを所有した。
ちゃんと目と脳を焼かれてる系息子。
白峰一族だけじゃなくて白銀一族もシルバーバレットに目と脳をヤられているのだ…。