匂いの記憶。
どちらかといえば甘党だ。
コーヒーは今の歳になっても苦手だし、酒もちょっと飲んだら寝てしまうぐらい弱いし。
…ということで僕にとって唯一のそういった娯楽は煙草ぐらいなものだった。
はじめはトレーナーであった先生と同じ銘柄のを吸っていたけれど、年を経るにつれてあれやこれやと他の銘柄に手を出すようになった。
……まぁ、それもこれも結局は全ては先生の影響であったのだが。
「……」
煙草の箱から一本取り出し口に咥える。
先生が愛用していたライターで火をつけ、紫煙を吐き出す。
……うん、やっぱり苦い。
いや、別に美味しいとも思わないし、吸いたいわけでもないんだけど…。
好きか嫌いかと聞かれれば間違いなく嫌いと答えるそれをどうにも手放せないまま。
かつて、はじめて吸った時に噎せた僕を先生は笑って見ていたっけ。
『ははは、なんだ。バレットでも不得手なことがあるんだねぇ』
そう言って僕の頭を撫でた先生の手は大きくて温かかった。
……あぁ、そうか。
僕はたぶん、煙草を吸うことで先生とのかつてに浸っていたいんだ。
それが悪いことだとはわかっているけれど、それでも思い出に縋らずにはいられなかったのだ。
「……」
煙草を灰皿に押し付けて立ち上がる。
そろそろ時間だ。
「頑張らないと、ね」
*
甘い匂いがしたのなら、それはすべからくアイツがそこを通った証だとか、そういう類のものであった。
自分の吸った煙草で燻されているようなアイツは、アイツの好むフレーバーが甘いタイプのものなのもあって、時折、その匂いを漂わせていた。
……あぁ、とはいえ。
アイツはいつだって甘い匂いがする。
それは砂糖だとか蜂蜜だとかそういった類のものではなくて、もっとこう……花のような香りだ。
まるで花畑にいるような錯覚すら覚えるぐらいには仄かで優しい甘さだった。
故に、甘ったるい匂いがした日は決まってアイツはここにいる。
「よォ、」
「……ん」
蒸かしていた煙草が消される。
建物内の喫煙所となっているそこは、ソイツだけしかいなかったのか、甘い煙が充満していて、少しだけ息を止めた。
「まだここにいたのか」
「うん」
短く返事をしたソイツは、いつもの柔らかい笑みではなく、どこか陰のある笑みを浮かべていた。
……あぁ、またか。
コイツがこういう顔をする時は決まって何かを抱え込んでいる時だ。
それは大抵がどうしようもないことであり、だからこそいつも一人で抱え込んで解決しようと躍起になるのだ。
「どうせお前のことだからよ、どーせくだらねぇことで悩んでんだろ?」
「……くだらないって酷いなぁ、アハハ」
「ン」
「え?」
「煙草」
「…キミ、この味あんまり好きじゃなかったよね?」
「ン」
「…はいはい」
僕:
シルバーバレット。
ちょっとナイーブ。
トレーナーと一緒にいた頃はよかったなの気持ち。
相も変わらずトレーナーLove。
なおこの状態の時はどこかぽけ〜っと心ここに在らずらしい。