見てくれと、願えども。
あるところに、女がいた。
その美貌は老若男女問わず見惚れる者はいないほどで、世が世なら傾国ならぬ滅国していただろうと恍惚の表情をもって語られる程度には、女は美しかった。
淀みひとつなく清水のように流れる芦毛の長い髪に、その髪と同じくらいに白い肌。
しかし唇は目を見張るような赤で、その中に収まる舌も血のように赤かった。
また瞳は、まるで霧を閉じ込めたかのような淡い銀灰である。
その輝きは見る者の心を奪い、魂を縛り付ける。
誰もが彼女を手に入れたいと願い、しかし叶わないと悟る。
「…」
何故なら、彼女は周りがどんなに興味をひこうとしても何をしても、決して靡かなかったからだ。
彼女はただ独りで在り続けた。
そして、彼女を知る者は皆口を揃えて言う。
「あの女は人間じゃない」と。
それは口惜しみ…というのもあるだろうが、一番はどれだけ彼女のことを忘れようと思っても、忘れようとしたが最後彼女のことが寝ても醒めても忘れられなくなるのだと。
それほどまでに彼女は美しかった。
しかし、そんな女にもついに唯一ができた。
それは彼女の美しさに目が眩んだ男ではなく、その逆だった。
「……」
男は女を『普通』に扱った。
ただそこにあるだけで好かれ愛される女を、贔屓するでもなく甘やかすでもなく、ただ普通に扱ったのだ。
女は男の行動に最初こそ驚いたが、やがてそれが当たり前かのように受け入れた。
「……」
だが、女の周りはそれを認めなかった。
段々と男に夢中になっていく女に、周りの者は焦り嫉妬した。
…のだが、
「あなた」
女には、そんなこと関係ないので。
時間をかけて自分を好きになってくれた唯一に彼女は微笑みかける。
『一目惚れだから好き』という大勢とは違い、彼女の中身を知ってもなお、いや知ったからこそ愛おしいと言ってくれた男。
「あなた」
女は男をそう呼ぶ。
「なんだ?」
男が答えると、女は花が咲くように笑った。
その笑顔は今まで見たどんなものよりも美しくて、男は思わず見惚れてしまう。
そんな男に女は言うのだ。
「私、今とても幸せ」
その言葉に男は笑って答えた。
「そうか」
手は、握り返さずとも女にぎゅうと握られて。
だがまあ、男が握ったら女の柔らかな手が潰れてしまいそうなので男はされるがまま────。
*
「よかったな」
『私、この人と結婚する』と、ある日突然帰ってきては告げた娘にそう告げる。
すると娘は子どもの時から変わらない無邪気な笑顔で「うん!」と嬉しそうに笑った。
女:
美しいひと。
花っぽくもあり誘蛾灯っぽくもある。
しかしその中身は年相応。
でもその年相応のところは懐に入れた相手にしか見せない模様。