だから。
『───わたし、貴方に口付けしたわ』
それはただのお遊びだった。
ライブの練習での一幕だった。
児戯のエチュード。
パントマイムも拙ければ、舞台装置も何もない。
それでも、その一瞬は、確かに現実だった。
『───わたしね、貴方のことを愛しているの』
それはただの戯れ言だ。
その場限りの睦言に過ぎない。
だが、その言葉が真実でないなどと、どうして言い切れるだろう?
『───だから……
そう告げて彼女は去った。
それが最後通牒だと告げるかのように。
踊るように、軽く軽く。
そのまま飛んでいきそうな程に、軽やかに。
『───だって、こうすれば……貴方は永遠にわたしのモノでしょう?』
それは呪いだ。
彼女は言った。
己のことが好きだと。
だから、殺してあげると。
この一瞬の
……そう、確かに自分はあの時に殺されたのだ。
その笑顔に魅せられて。
その指先に捕らわれて。
その眼差しに囚われて……彼女の虜となったのだ。
「はい、終わり〜!」
パンっ!という手を叩く音がその部屋にいた皆の意識を現実に引きずり戻す。
「こ、これでいいんだよね…?ねっ?」
困惑した顔で全員を見回す彼女の顔は段々不安に彩られていく。
先程までの見る者すべてを虜にし、破滅させようとせんばかりの蠱惑的な笑みは微塵もない。
そこにあったのは、ただの『素』の表情だった。
「はい、ばっちりです。さすがは先輩ですね」
そんな彼女をねぎらうように拍手しながら、シンボリルドルフがニッコリと微笑む。
その笑顔にホッとしたのか、彼女はようやく肩の力を抜くことが出来たようだった。
「みんなの前で踊る方がよっぽどマシだったよ…」
「それで足が滑ってケガをされても困りますよ?」
「う゛っ、」
先程までヒラヒラと踊っていたというのに、今度は冷や汗をかくという器用な真似をする。
「しかし……本当にすごいね、キミは」
シンボリルドルフが感嘆の息を吐く。
それは他の皆も同じだったようで、一様に頷いていた。
「え?そ、そう?」
褒められたことが嬉しかったのか、彼女は少し照れたように笑った。
そんな様子を見て、シンボリルドルフは彼女の隣に立つ人物に声をかける。
「なぁ、シービー?」
「まぁね〜…」
ミスターシービーは思う。
アレを最期に見せられちゃたまったもんじゃないな、と。
それまでどれほど彼女を嫌っていても、あんなものを最期の最後に見せられちゃ惚れない方がおかしいってもんだ。
「『わたし、貴方に口付けしたわ』ねぇ…」
してもらいたいものだね、と呟いた声が重なるまであと…?
僕:
シルバーバレット。
妙に危機迫っていた。
こういうエチュードがよく似合うウッマ。
それはそれとして脳は焼く。