『罪』というべきか。
「よく、分からないことを言うんだね」
随分な力で胸ぐらを掴まれた、その第一声がそれだった。
身長差から踵が浮く体勢になっているというのに表情は相変わらずの何を考えているか読めない無表情だった。
「分からないって何がだよ」
「そんなことを言われるのがさ。した覚えのないことを謗られるなんて…」
それだけ言うと胸ぐらを掴む手の力がまた強まった。
それに伴い踵もまた浮く。
「何がしたいの?」
思わず呟いた。
だがそれでも状況は変わらない。
それどころか更に力が強まった気がする。
「あ」
がしかし。
自分たちの現状を見ていた
バタバタと大人たちがやって来た。
そこでやっと手が離され、地面に足が着く。
「大丈夫ですか?」
そう声を掛けてきたのは、最近よく見かけるようになった顔だった。
「あ……はい」
「良かったです。にしても……」
ちらりと見やると、大人たちは何やら話していたが、それはすぐに終わった。
大人は忙しいのだ。
*
シルバーバレットが、自身を何かと絡まれやすい体質だと気がついたのはトレセン学園に入学した以後だった。
まず出会い頭に胸ぐらを掴まれたり、声を荒げられたりするなんてよくあることで。
それから、暴力まがいを振るわれることも…少なくなかった。
ただそれはシルバーバレットにとっては日常茶飯事だった。
だからそれに対する対処法も自然と身についていた。
「あ」
だが今回はその限りではなかったらしい。
いつものように絡んできた相手からの攻撃の打ち所(?)が悪く、そしてシルバーバレットの体重が軽いせいもあってが吹っ飛んでは壁に頭をぶつけてしまった。
物の見事にパックリと割れた額からは少しずつ、けれど徐々に血が流れ出してきて。
「わあ」
シルバーバレットは、ようやく事態の深刻さに気がついた。
・
・
・
「え?」
思わず声が出た。
目の前の光景に理解が追いつかなかったからだ。
だがそれも仕方ないだろうと思う。
だって……あの、シルバーバレットが怪我をしたのだから!
しかも額の傷だ。出血量からして結構な怪我なのは間違いない。
そんな大怪我を負ったというのに彼は平然としていたし、それどころかその事に対して何の感情も抱いていないように見えたのだ。
いや「わあ」と気の抜けた声は出していたが。
「だ、大丈夫か!?」
たまらず声を掛けていた。
シルバーバレットは顔の4分の1を血で染めているというのに、何事もなかったかのように話しかけてきた相手に驚いたのか目をぱちくりとさせていたが、すぐにいつもの表情に戻った。
「うん」
そんな短い返答をしてから彼はふらりと保健室の方へと向かっていった。
僕:
シルバーバレット。
何も覚えていない。
なので謎の言いがかりをつけられてると思っている。