さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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牽制。



あいしてる…?

ある日から、視えるようになった。

友人であるアイツの肩から、じぃと自分を睨めつけてくる影。

美しくも、どこか恐ろしい女のカタチをしたソレはひどくひどく愛おしげに、付かず離れずアイツの傍にいた。

 

「ザンさん?」

 

ふにゃりと、ソイツが笑う。

「どうしたの?」と問う声と反して、女が俺を射殺すように睨みつける。

髪が長いのも相まって、まるで濡れ女か何かのようだ。

 

「何でもねぇよ」

 

雨が降ったあとだから、すべると危ないからと理由をつけてソイツの手を取る。

だって今にも子どもみたく駆け出してそのまますってんころりん行きそうな程度には子どもっぽい友人だから。

ソイツ自身も元来がスキンシップ好きな人間であるからして、手を繋いだくらいでは特に疑問にも思わないようで、「えへへー」と嬉しそうに笑っている。

その笑顔に思わずこちらも笑みが零れた。

 

───ああ、大丈夫。コイツは俺が守るから。

 

ソイツの笑顔に釣られたのか、それとも別の理由か。

俺の口もいつの間にか弧を描いていたのだった。

 

 

女は、自らの夫を愛していた。

その愛はとっくに成仏できるのにベッタリと夫である男にくっついているほどで、それが元々夫の守護霊だった先祖にその位置を代わってもらったと言えば…多少の説明はつくだろう。

女は夫を愛していたし、夫も女を愛していた。

けれど、それは互いが互いのものであるという前提があってこその愛である。

どちらか一方が欠ければ、その関係は成り立たない。

だから女は男を自分のものにしたかったし、男は女を、女の死後もなお忘れようとはしなかった。

そうして女は先祖に頼み込み、守護霊の座を譲り受けたのだった。が、

 

「ねぇ、ザンさん」

 

その夫に、友人ができた。

いや、本当は喜ぶべきことなのだろうが、いかんせんその友人の向ける目が普通の友情ではない。

いちおう友情の範疇にまだ収まっているだけで、その内に秘めた感情はかなり重い。

 

「この人は、私のモノよ」

 

じぃと睨めつける。

だが夫の友人である男は、女が視えているだろうにも関わらず飄々とした顔で普段通りに夫に接する。

 

「危ねぇぞ」

「わっ!ありがとう」

「ン」

 

その笑顔は、私だけのものだったのに。

私だけに、くれたものだったのに。

 

「ねぇ、ザンさん」

 

男が女に向かって勝ち誇った笑みを浮かべる。

『もうお前だけのものじゃない』のだと。

『お前はもういらない』のだと。

 

「ねぇ、ザンさん」

 

女が夫に向かって微笑む。

『貴方を想うのは私だけよ』と。

『貴方は私を想っていればいいのよ』と。

ああ、なんて憎たらしい男なのだろう!

それを当然であるかのように振る舞うその態度が、その目が、その笑顔が!!

───ああ、憎いわ。とてもとても憎いわ。

 





わたしのものよ。
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