さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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お互いに。



好きの話

僕の好みといえば、僕のことを好きな人が好きといった具合だろうか。

いちおうは「優しい人が好き」などと当たり障りのないことを言っているがその本質はエゴが過ぎている。

 

「好きだ」

 

そう、自分自身を理解しているというのに。

真剣に告げられた想いにぐらりとキてしまって、そのまま流されるように収まってしまった。

好きだって、愛してくれるっていうんだからいいじゃないと心の内の悪魔が囁いて、僕はそれを受け入れてしまった。

それからというもの、相手は僕に愛をささやくようになった。

それは日常的なもので、「好き」だとか「愛してる」だとかそういったありふれた言葉だ。

僕はそれに照れながらも嬉しそうにして相手の腕に抱かれて。

……そんな日々が、ずっと続くのだと思っていた。

 

「……」

 

ある日のこと、相手が知り合いらしき人と歩いているところを見かけた。

別にそれ自体はおかしなことではないし、僕も人のことをとやかく言えないと思う。

けれど、知り合いと話す相手の顔を見ていると僕が見たことのない顔ばかりで、ああ、この人のことを僕は何も知らないんだなと理解した。

別に相手のことを全部知ってるなんて傲慢なこと言いはしないが。

それでも、心のどこかで「相手は自分のものだ」と思っていた。

その傲慢さに嫌気がさす。

相手だって人間だ。

僕もそうなように、相手にも相手なりの人間関係があって、その中でいろいろなことがあって、それは僕にも当てはまることで……。

そんな当たり前の事実に目を背けていたんだと思い知らされたようでひどく落ち込んだ。

 

「……ただいま」

 

頭を冷やすために散々歩き回って、家に帰った頃には既に夜で。

「おかえり」と出迎える相手に、僕は「ごめん」と謝った。

「何が?」なんて首をかしげる相手に僕は言葉を濁す。

けれど相手は僕の様子がおかしいのを察したのか、僕に詰め寄った。

 

「……何かあったのか?」

 

「別に何も……」そう言っても相手は納得しないようで、じっと僕を見てくるものだから僕も観念した。

「今日さ……キミを見かけてね」とぽつりぽつりと話し始める。

 

「ああ、…見られてたのか」

 

その答えがチクリと僕の心を刺す。

刺傷は些細なものでも、ジクジクと痛んで…。

そっと痛みから目をそらすように瞼を下ろした僕に相手は、

 

「恥ずかしいな」

「恥ずかしい?」

「お前のことを自慢してたんだ。たぶん、緩んでただろう?口元とか」

「え、」

 

「だから、それが恥ずかしくて。……嫉妬してくれたなら、嬉しい」と。

そう、照れくさそうに笑った相手に僕は思わず抱きついた。

ああ、そうだ。

僕だけが好きなんじゃないんだ。

この人も僕を好きでいてくれているんだ。

そう思うとなんだか心が軽くなった気がした。

そして同時に、僕の独占欲が顔を出した。

「……ねえ」と相手の耳元で囁くように言ってみる。

「ん?」と相手は不思議そうに僕に聞き返すから、そのまま続けてみた。

 

「僕だけを見ててね。…これからも、ずうっと」





似たもの同士かもね。
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