さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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笑顔も、何もかも。



二番煎じ

あの頃。

シルバーバレットというウマは笑わないことで有名だった。

教えを乞えば、快く教えてくれるがその折に冗談を告げられても表情がピクリとも動かないため、例えいわゆるカスの嘘でもシルバーバレットが言うなら…と信じてしまう者すらいて。

「笑わない」ではなく、「笑えない」のだと噂する者もいたが、その真意は誰も知らない。

そんなウマが、

 

「あははっ!」

 

笑っていた。

見るからに破顔して。

その隣にいるのは異国から来た目つきの悪いウマ。

それまでどんな相手に求められようがひとつも靡かなかったウマが当たり前のように誰かの隣にいて、誰もが見たいと思った表情を独占している。

 

『シルバーバレット』が笑っている。

 

それは、勝利者だけが見ることを許された夢のような景色だった。

 

 

その日から、シルバーバレットは笑うようになったという。

そして、そんなシルバーバレットに心酔する者は後を絶たず……。

やがて、誰もが言うのだ、シルバーバレットが心からの笑みを見せるのはあのウマにだけだと。

自分たちに見せられるものは、あのウマに向けたものの二番煎じだと。

シルバーバレットは、あのウマのためだけに笑うのだと。

 

 

「笑ってたつもりだったんだけどなあ…」

 

周りからの評価など知るよしもないシルバーバレットはそう言って、親友であるサンデーサイレンスの前で自分の頬をマッサージするようにモニモニと揉む。

シルバーバレットの現役時代の自分がどんなだったかという自覚は他人が思うソレとは大きく違っていて。

本人からしてみれば己のきょうだいにするような穏やかな応対をしていると思っていたのだけど、どうやら周りからは「笑わない」と評されていたらしい。

 

「でも、今のお前の方が俺は好きだぜ?」

「……うん?」

 

シルバーバレットの頬をモニモニする手をそっと掴んで止めながらサンデーサイレンスがそう告げると、シルバーバレットは不思議そうに首を傾げる。

そんな親友にサンデーサイレンスは続ける。

 

「だってさ、お前の笑顔を、表情を、俺がいの一番に独占できるって考えたら……それって最高じゃね?」

「サンデー……」

 

シルバーバレットは、思わず胸がキュンとなる。

サンデーサイレンスは、いつだって欲しい言葉をくれる。

そんな親友からの言葉を噛み締めていると、サンデーサイレンスはシルバーバレットの頬をモニモニしていた手を今度は自分の口元へと持っていきながら続けた。

 

「それにさ」

「うん」

「お前が笑ってる時って、俺がお前の一番近くにいるってことだろ?だから」

「…恥ずかしいこと言うなあ」

「ハハハ」





僕:
シルバーバレット。
本人は表情豊かなつもりでした。
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