今、キミはどこにいるだろう。
キミは賢いから変なところに行ったりはしないだろうけど。
相棒である僕にはやっぱり心配で。
キミに関しての話をしよう。
はじめてキミを見たとき、『天啓』だと思った。
あの頃は誰もキミに期待してなかった。
サラ系で、ひどく小さくて、脚も枯れ枝のようなキミに注目する人は誰もいなかった。
でも僕はまだその背に跨っていない癖に、キミが僕のモノだと思って、その背を誰にも渡したくなかった。
僕がキミに乗ることを渋るテキを必死に説得して乗せてもらった。
乗ってみて本当に惚れ惚れとした。
こんな馬、もう二度と現れないだろうと直感までした。
乗せてくれ、と自分から頼み込んだのは後にも先にもキミだけだ。
調教途中のたった一瞬だけで、キミを美しいと思ったのは何度あっただろう。
不思議な色の抜け方をした芦毛のキミを、顔に酷い火傷を負ったキミを、醜いと言った人はたくさんいたけれど、僕にとってはキミがいっとう、世界一美しい馬だった。
キミの背に乗り、風を切るのが好きだった。
楽しげに走るキミが好きだった。
諦めないキミに何度勇気をもらっただろう。
キミに乗ると負ける気が不思議としなかったのを覚えている。
本当は、キミが僕以外の人を乗せるとなったら拒否するだろうという話を聞いたとき、すごく嬉しかった。
キミは僕だけの馬で、僕もキミだけの騎手ならそれはとても良いことなんじゃあないだろうかと思って。
あの日まで、キミは馬鹿にされ続けていたね。
それに僕は怒りながらも、哀れんでいたりしたんだよ。
キミの凄さを分からない人を、世界を哀れんでいたんだ。
でも、僕だけしかキミの凄さを知らないと思ったら優越感もあって。
キミがずっと僕のモノだったらどれほど…。
本当に、本当に世界にキミを知らしめたくなかった。
キミの凄さを理解して欲しいと言っていた癖に随分な矛盾だとおもうけれど。
キミといた日々は今でも夢のようで。
こんな僕をキミが見出してくれたのは奇跡だった。
キミなら僕じゃなくても勝てただろうに。
でも、キミが選んだのは僕だった。
僕が選んだのがキミだったように。
周りの人たちは僕たちの出会いが『運命』だと言うかもしれない。
でも、違うだろう?
僕たちの出会いが、あのクソッタレの神様に定められたモノだったなんて嫌だから。
そんな陳腐な言葉で言い表せるものではないだろうから。
世界には凄い馬がたくさんいる。
そしてこれからも強い馬がたくさん出てくるだろう。
けど、僕は一生、死んでもキミが、"シルバーバレット"が最強なのだと、高らかに、恥ずかしげもなく叫ぶんだ。
こんな僕の一世一代の告白を、どうかキミに聞いて欲しいと思う。
『さよならはまだ言えない』:特☆級☆呪☆物。
愛ほど歪んだ呪いはないってソレ…。
全編こんな感じで進められる備忘録。
自分から土下座しかけてまで「自分が乗ります、乗らせて下さい」と頼み込んだくらい惚れ込んだウッマに対する『愛』が読めるゾ。
最愛の存在を亡くしてしまった人間の極地点を垣間見ることができる。
あの日からずっと、白峰透はシルバーバレットの死を信じなかった。