さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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フラフラしてても。



帰る場所

ザンさんはいい人だ。

それは幼い頃からの知り合いだからと言われればそうだが、あの祖父ともはや親友みたく付き合えているあたり、やはり只者ではない。

 

「お、来たな」

 

ザンさんはいつもそう言って僕を受け入れてくれる。

続け様、「アイツはどうだ?」と祖父のことを聞くがいつも通りに「元気ですよ」と返す。

 

「また何処かに遠出してるみたいなのでお土産でも持って帰ってくると思いますよ」

「お〜。…アイツ、もう年寄りの癖して」

「ザンさんだって似たようなもんでしょ」

「言ったなコイツ」

「あうっ!」

 

ぺち、と叩かれたのに痛がる振りをする。

別に痛くはないのだけど、そうするとザンさんが面白そうにするので僕はそうしている。

 

「で? 今日はどうしたんだ」

「あ、はい。実は……」

 

そこで今日ここに来た本題に入る。

僕がここを訪れたのは、祖父からの手紙を届ける為だ。

彼は我が家に手紙を送ってくる時はいつもその封筒に宛先を書いていない。

というか、そもそもこの手紙自体我が家宛ではなく、我が家からザンさんに運んでもらいたいとの暗黙のメッセージがあるので。

 

「アイツも相変わらずだな」

 

手紙の内容を読んだザンさんは、やれやれと肩を竦めながらも何処か楽しそうに笑う。

 

「じゃあ、そろそろ行きますね」

「あぁ。……あ、待て」

「はい?」

 

椅子から立ち上がった僕をザンさんが引き止める。

なんだろうと思っていると彼は懐から何かを取り出し、それを僕の手の上に置いた。

それは小さな蹄鉄だ。

しかしただの蹄鉄ではないらしく、その形は普通の蹄鉄よりも不思議な形をしている。

 

「何か封筒に入れて、お前ん家の郵便ポストにぶち込んどけ。アイツなら取りに来らぁ」

「そう、ですかねぇ?」

 

家族の僕らでも祖父が何処にいるのか、詳しくは分からないというのに。

しかしザンさんなら、祖父の居所が分かるのかもしれない。

 

「……分かりました。じゃあ、今度こそ」

「おう。アイツによろしくな」

「はい」

 

そうして僕は再び外へと足を向けるのだった。

 

 

ホワイトバックは老齢でありながら、旅をすることにした。

娘夫婦も孫たちもホワイトバックがもう守らなくてもいいほど立派になった。

ならば、そろそろ好きに生きていいんじゃないかとホワイトバックは考えたのだ。

しかし、そう決めたのはいいが如何せん何処に行こうかと悩んでいた時だ。

 

「ん?」

「よう」

「ザンさん」

 

今にも旅に出ようとしていた彼を引き止めたのは友人であるザンさんで。

 

「旅に出るのはいいが…手紙寄越せ」

「え?」

「生存連絡だ」

「…はぁい」





どこかに消えてしまいそうなウマとそのウマの帰る場所になろうとしたウマの話。
どこにも、行かないで。
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