いつかの記憶。
「僕が、欲しいの?」
言葉は、あどけない子どものようであったがその気配は自分を押さえつけるように巨大で。
まるで自分の寝首をかこうとした弱者に向けるような視線に、自分は。
「あ、ああ……」
「そう」
その一言で、相手を解放した。
その途端に少し顰められた顔に、自分が随分な力で相手の手首を握っていたのだと自覚する。
「…あ、すまん!」
慌てて手を放すと、相手は自分の手をくるりと返して眺めながら。
「別に良いよ。それで?欲しいの?」
と、先ほどと同じ質問をした。
「え……いや」
先ほどの恐怖が抜けきらぬままに問われた言葉に、自分は思わず口ごもる。
そんな自分に、相手は軽く肩をすくめて見せた。
「まあ、僕としてはどちらでも構わないんだけど……でもそうだなあ」
そう言いながらも少し考え込むように視線を彷徨わせ、相手は自分を見た。
「でも、そうだなあ……うん」
そして、少しだけ考え込んだ後に相手は言った。
「キミの望みは叶えてあげるよ。…お試しで、だけどね」
そう薄く笑った相手の顔を、自分は一生忘れないだろう。
その笑みは、今までのどんな表情よりも美しく見えたのだから。
「……っ」
がばりと身を起こすと、そこは見慣れた自分の寝室だった。
「ゆ……夢か……」
思わずそう呟くも、あの美しい顔が脳裏をよぎって頭を振る。
あれは、自分の願望が見せた夢だったのだろうか?
「いや……違う」
確かに自分はあの美しい顔と、そしてあの言葉の全てを覚えている。
そう確信した瞬間、ぞくりと背筋が震えた。
「おはよう、もうご飯できてるよ?」
瞬間、呼びに来た声に意識を戻す。
「いま行く」と答えれば、「あんまし慌てなくていいからね」と。
「はい。いつもスッキリ目覚めてくるのに今日は珍しいね」
「夢を見た」と端的に告げると、ふぅんと返ってくる。
「それほど、目覚めたくない夢だった?」
「まさか!」
こっちは寝ても醒めてもお前のことばかりだというのに、そんな夢など見るものかと。
「なら、どんな夢を見たのさ」
そう問われて、口ごもる。
それは……。
「いや……まあ、その……」
まさか昔の夢を見たとは言えないだろう。
あの日の自分は、今思い返しても恥ずかしいばかりの反応であったのでそう思い出してもらいたくないのだ。
「とりあえず、ご飯食べなよ」
「お、おう…」
ホカホカのご飯に手をつけつつ、この後に追求されなければいいなあと祈る。
何が悲しくて、なあ?
「美味しい?」
「ん」
「そりゃあよかった」
「ん〜」
気持ち的には「そう言われたし…」みたいな感じ。
相手への好感度がそれなりだったのでお試しし、そのまま…みたいな。
(表向きは)誰にも求められなかったから、一番初めに求めてくれた人の元に向かっただけのこと。
ただ、それだけ。