夢を。
どうしようもなく、魅力的な男だった。
ひどくひどく美しくて、彼のことをどうも思わない周りを、見る目がないと憤ったことも一度や二度ではなかった。
「リリィ」
愛していた。
愛していたとも。
「……バカがよ」
そんな男が死んだのは唐突なことだった。
真夏になる前ギリギリの太陽が燦燦と照りつける日に。
いつものように「愛してる」と宣おうとして、胸を押さえて。
『りり、ぃ、あい、して、ぅ゛…』
最期の最後まで、男が宣ったのは同じことで。
だが、彼女の手を決死で握ったまま、意識を失っても離しはしなかったので、結果、彼女はそのまま夫の死を看取った。
「…バカがよ」
骨壷を抱える。
憂いを帯びる彼女は、異様なまでに目を惹いた。
黒黒とした喪服と、今にも雫が零れ落ちそうなのにキュウと真一文字に唇を引き絞って、白魚のような指で骨壷をやさしくやさしく撫でるさまは、何故かどうにも、悲哀よりも色香が勝っている。
「母さん」
「……ん、」
そんな彼女に声をかけたのは、ふたりの長女である女で。
足取りの覚束無い彼女を支えた女は、先程彼女を見てゴクリと生唾を飲んだ
「…どうした」
「……そろそろ行きましょうか」
「そう、だな」
こくり、とひとつ頷いて。
彼女はその骨壷をそっと抱え直すと、またもキュウと唇を真一文字に引き結んだ。
*
『……リリィ』
……あぁ、またこの夢だ。
『愛してるよ』
何度目の愛の言葉だろう。
もう声も覚束無いけれど……でも、その言葉を聞く度に心が満たされていく。
『愛してる』
……あぁ、もう。
そんなに何度も言うな。
「ん……」
朝だ。
カーテンの隙間から射し込む朝日に顔を顰めて、彼女はのっそりと起き上がった。
「あ゛ー……」
頭が痛い。
喉がヒリヒリする。
体がダルい。
そして何より、…夢見が悪かった。
いやはや本当に、なんて酷い夢を見たものだろう!と彼女は頭を抱える。
「目覚めたら、いないくせに」
ずっとずっと、己を抱き締めて眠っていた腕は遠になく、彼女はひとりだ。
「バカがよ……」
『愛してる』と、最期も、夢でも、宣った夫に悪態をついて、彼女はのっそりと布団から起き上がった。
・
・
・
ホワイトリリィというウマは、ホワイトという名に反して、いつも黒い着物を着ている。
キッチリと髪を結い、乱れひとつもない着物に、その真白の肌はよく映えた。
「母さん」
「……なんだ、フォー」
「そろそろ行きましょうか」
「……ん、そうだな」
その真白の肌に喪服は、よく映える。
*
『……リリィ』
……あぁ、またこの夢だ。
もう随分と聞き馴染みのなくなった声に彼女はそっと目を開く。
『愛してるよ』
「……」
……本当にバカがよ。
そんなの知ってるってのにさァ。
なんで死んだんだよ。
なんで置いてったんだよ。
普通、置いていくのはアタシの方だろ。
それでテメェが泣いて縋って、アタシのこと一生忘れられずに引きずって、アタシのことだけ考えて生きてくんだよ。
それが正しい道だろ?
『愛してる』
……あぁ、もう。
なんで死んだんだよ。
もう聞けねぇじゃねぇかよ、バカ野郎が。
「……」
……でも、そんな未来はきっともっと後のことだと彼女は思うのだ。
だってほら、もうこんなにも夢に見てるんだからさァ。
あいしてる。