さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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……『約束』、破ったからこうなったの?
だったら…、だったら謝るから!
何度だって謝るから!だから、だからだからだから!

『かえってきてよぉ、チビぃ…』


*キミだけがいない世界

シルバマスタピースには大切な"ともだち"がいる。

だがその"ともだち"は周りの人々から見るとおかしくて、名家の生まれのウマ娘であるはずなのに、彼女はいつも遠巻きにされていた。

しかし彼女はそんなこと全然気にしない。

 

「バレット、今日もいい天気ですねぇ。

こんな日は『走りに行こう!』って僕のことをよく誘ってましたよね」

 

穏やかな陽射しを浴びながら、そう会話するシルバマスタピースの手に抱かれているのは小さなウマ娘の人形。

だがその人形は生きているかのように精巧で、その精巧さはその人形を見た人に「不気味の谷」を思わせるほどだった。

そんな人形にシルバマスタピースは名前をつけている。

"シルバーバレット"という名前を。

 

 

シルバマスタピースには幼い頃からずっと、漠然とした喪失感があった。

誰かがいない。自分の一番大切な部分を構成する誰かがいない。

そのような事実に気づいてしまったシルバマスタピースは良い風に言い換えて、錯乱という状態になってしまった。

それまでは良家の子女らしい女の子であったのに、と彼女の両親は頭を抱え、一向に回復傾向に向かわない愛娘に悩みに悩んだ末与えたのが、あの不気味の谷を思わせる"シルバーバレット"と名付けられた人形だったのだ。

 

"シルバーバレット"はシルバマスタピースの要望通り作成された世界にたったひとつだけの人形。

たくさんの試作品を「これじゃない」と壊し続けてやっと認められた作品なのだ。

 

"シルバーバレット"を与えられて、シルバマスタピースはようやっと落ち着いた、のだが"シルバーバレット"を取り上げようとしたり、"シルバーバレット"のことを乏しめたりするとまたあの頃のように錯乱してしまうようになった。

"シルバーバレット"をこの世界で生きている存在として扱わないとその相手が誰であれ、場所がどこであれ、ウマ娘の肉体能力の限りを尽くして暴れ散らすようになってしまったのだ。

 

その欠点さえなければ学力・競走能力どちらともどこに出しても恥ずかしくない良い子の娘であるため、彼女の両親はその欠点に目を瞑り、トレセン学園へと彼女を通わせることになった。

それには彼女がトレセン学園での生活を通じて、"シルバーバレット"に頼らずとも生きていけるようになればいいとの願いが込められていたのだろうが…。

 

「バレット、今日のご飯は何にしましょうか?

最近寒くなってきましたから、困りましたねぇ。

何でも好きな料理をおっしゃって下さいね?

僕が作りますから」

 

シルバマスタピースの欠点は両親の目がなくなったことで更に悪化した。

いつでもどこでも"シルバーバレット"と共にある、ふたりだけの世界を形成してしまったのだ。

そして、そんな生活でも学業と必要最低限の数のレースを問題なくこなしているからタチが悪い。

彼女はトレーナーがおらずともある程度の成績をあげてしまったのだ。

 

「…トレーナーなんて要りませんよ。

僕にはバレットだけがいればいいんです、ねぇ?」

 

シルバマスタピースの実力を見初め、トレーナーを打診してきた人間は今までたくさんいた。

しかし、その誰もが"シルバーバレット"と共にあるシルバマスタピースを見ると打診を撤回するのだ。

 

「『そんな人形と一緒にいるとキミの身にならない』なんて馬鹿なことを言ったヒトもいましたっけ。

僕はキミがいるから強いのに、キミがいなくちゃ生きていけないのに…」

 

そうボヤくシルバマスタピースの言葉に応えるものはいない。

そして未だシルバマスタピースにトレーナーがつく予定はない。

 

だがもしも、もしもの話だと仮定して。

こんな彼女たちの関係のすべてを受け入れてくれるトレーナーが現れれば、どうなるだろう。

"シルバーバレット"のことを恐れず、またシルバマスタピースと同等、いやそれ以上に"シルバーバレット"をこの世界に存在するウマ娘だと扱ってくれる人がいたなら…?

 

「…まぁ、そんな人いるわけないですけどね」

 




シルバマスタピース:置いていかれた世界のすがた(ウマ娘)。
幼いころにもらった"シルバーバレット"と名付けた精巧な人形を大切に、…自分よりも大切にしている。
人形を大切にしながらも"シルバーバレット"はこの世界のどこかにいると信じている。…信じておかないと本当におかしくなってしまうから。

趣味は絵を描くこと。しかしそのモチーフはいつも同じで、謎の四足歩行の生き物の絵を描いている。本人いわく『忘れないように』という理由からだという。

育成ストーリーはプレイヤー評的には「なんでウマ娘でホラーやってんの?」とのこと。
しかし、現実に置いていかれてしまった者としての前例&同類()がいらっしゃるので受け入れられている。
明らかに「こちら側」を認識しているウマ娘。
他のウマ娘のストーリーに出てきてもこちらをずっと見ている。
よくこちらに話しかけてきてはキャラに「どこに話してるんですか?」と聞かれている。

あなた、"シルバーバレット"のこと、知ってますよね?

>>はい
>>はい
>>はい

そうですよねぇ、バレットは存在するんです。
えぇ、えぇ、そうですとも!!


勝負服に差し色の白と黄色が入っていなかったら喪服に見えるとはもっぱらのウワサ。

育成ストーリーは彼女の史実をなぞりながらも、"シルバーバレット"のキセキも共に語られている。…誰よりも近くにいたシルバマスタピースの語りによって。

トレーナー:画面の向こうの『あなた』。
なんとなくバレットが大事にしていた"あの人"の面影を感じますが…、まぁそうですよね。
"あの人"がバレットの存在を信じない、なんてことありませんから。
…それはそれとして。
『あなた』。
そうそう、『あなた』です、『あなた』。
『あなた』は"シルバーバレット"のことを知っている。
僕よりもずっとずっと、"シルバーバレット"の存在を信じてくれている。…そうでしょう?
だから、

今までも、これからも、ずっとずっと、……そうあってくださいね?


そ う あ っ て く れ ま す よ ね ?


実は今回の実装にともない、「本当はシルバーバレットの海外遠征のとき、シルバマスタピースが帯同馬としてついていくはずだった」という地獄のこぼれ話が馬主(息子)の手によって某SNSサービスで呟かれている。

大☆戦☆犯(おにんぎょうのすがた):すべてを狂わせた元凶。
もしくは(世界から)逃げるな卑怯者。
決してこちらの世界に来ることはない(はずの)存在。
シルバマスタピースの不調イベントの夢にて『僕が居なくても大丈夫だよな!』と言って走り去って行こうとするらしい。行くな、帰ってこい。
また、ともにこちらに来ることができないもの同士としてマンハッタンカフェの"お友だち"と仲良くしていたりするかもしれない。
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