さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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気づかないの?



大切なのに

先輩は口を噤むと恐ろしいほどの美形になる。

まあ元々が美形と言われればそうなんだけど、いつもの愛嬌が取れてしまいかねんぐらいには黙った時の先輩は、それはそれは…恐ろしいほどに、美しい。

 

「……」

 

まさに氷のよう。

冷ややかに僕らを刺し貫いては、周囲を沈黙させる。

 

「先輩…?わっ!」

 

恐る恐る先輩に話しかけると、不意に手を引かれ、そのままツカツカとその場を離れることに。

 

「あ、ちょ、先輩!どうしたんですか!」

 

僕の呼びかけに先輩は応えない。

そのまま校舎の陰まで引っ張られると、ようやくその足が止まった。

 

「……はぁ……まったく、テメェって奴は……」

「え?」

「いや……なんでもない」

 

そう言うと先輩はまた口を噤む。

……本当にどうしたんだろう?

何か言いたげな表情だけど……でもそれを口に出そうとはせず、ただもどかしそうな顔をしているだけ。

 

「……あの、先輩」

「……うるせぇ」

 

思わずびっくりする。

だって、いつも素っ気ない先輩が自分を抱き締めるように促してくるからだ。

いつも僕からなのに……。

 

「え、と……」

「早くしろ」

「は、はい!」

 

慌てて先輩を抱き締める。

すると先輩は僕の胸に顔を埋めて……そしてそのまま動かなくなった。

 

「……あのー、先輩?」

「黙ってろ」

「あ、はい」

 

いや、でもこれはこれで恥ずかしいというかなんというか……。

だっていつもと違って先輩が自分から求めてきたんだし……。

それになんかこう、いつもと違う感じがして落ち着かない!

あの先輩からこんな行動がくるなんて……。

 

「……あの、先輩」

「なんだ」

「その……どうしたんですか?」

「…………」

 

先輩は答えない。

ただ僕の胸に顔を埋めてじっとしているだけだ。

でも、それでもなんとなくわかることはある。

それは先輩が今、何か不安を抱えているということだ。

そんな気がするだけなんだけど……でもそれぐらいは僕にも分かるようになってきたと思うし……それになにより、今の先輩の雰囲気はどこか寂しげで悲しげだったから。

だから僕はそんな先輩を安心させるように優しくポンポンと背中を撫でる。

 

「…ばーか」

「ええっ!」

 

 

本当に、コイツは…。

俺がひどいこと言われるとスゲェ怒るくせに、自分がそういうこと言われたら全然気にしなくて。

それが俺は……。

 

「……あの、先輩?」

「うるせぇ」

「あ、はい」

 

いや、でもこれはこれで恥ずかしいというかなんというか……。

だっていつも俺がコイツに抱きつけってせがんでたから……。

だから俺からこうするのは初めてで……なんかすげぇ緊張する!

それになんだこれ!

なんで俺はこんなにドキドキしてんだ!?

おかしいだろ!!

 

「え、と……」

「早くしろ」

 

ああもう!なんでこんなことになってんだよ俺!

いやコイツが鈍感なのが悪いんだ!

だから俺は悪くない!絶対悪くねぇ!!

 

「あの、先輩?」

「黙れ」

 

いやでも……。

なんでだ?

なんでこんなに緊張するんだ?

コイツはただの後輩で……そのはずだろ?

なのになんで俺はこんなにドキドキしてんだ!?

ああもうわけわかんねぇ!

 

 

それからしばらく先輩は僕の胸に顔を埋めたまま動かなかった。

僕はというとそんな先輩の背中をずっと撫でていたんだけど……それが功を奏したのか、やがて先輩が口を開いた。

 

「……なぁ、お前は俺のこと大切にするけどさ」

「はい」

「お前も、お前を大切にしてくれ…」

「え?」

 

先輩が何を言いたいのかよく分からなかった。

いや、言葉自体は分かるんだけど……どうしてそれを僕に言うのかが分からない。

だって僕は先輩を大切にしてるし、大切にしたいと思ってるからやってることなのに。

でも先輩の声色は真剣そのもので……だから僕も真剣に答えることにしたんだ。

 

「あの、僕なりに精一杯やってるつもりなんですけど……」

「……ああ」

 

そうは答えるけど、先輩の顔は不服げだ。

 

「ホント、バーカ」





【銀色の激情】:
シルバアウトレイジ。
普段は不良っぽく見えるが黙ると生来の顔の良さが出る。
でも顔が良すぎて怖い。
だが怒るのは自分以外のことのみ。
…コイツさあ。
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