さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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なんで。



『悪魔』はわらう

『悪魔』だと言われた。

崇拝も受けたし、それと同じくらいに石を投げられた。

だから、だからこそ。

 

「…ごめんね」

 

手を離そうと、したのに。

英雄(ヒーロー)として、誰からも愛されるキミ。

悪役(ヒール)とみなされた僕とはまるきり真逆のキミ。

だからこそ、僕はキミが好き(大嫌い)だった。

 

「だから……ごめん」

 

そう言って手を離した。

それなのに、どうしてだろう。

『悪魔』と呼ばれた僕を、『英雄』になったはずのキミは離してくれないんだ。

 

 

「……なんで?」

 

なんで?

なんでなんだ?

なんで、お前はそんなに強いんだ?

そんな疑問を視線に込めて彼を見るけれど、彼はいつものように笑って言うだけだ。

 

「だってさ」

 

……ああ。ダメだ。

その目に見られると、どうにも頭を垂れてしまう。

頭を垂れて、甘やかされたくなってしまう。

甘やかされて、何をするにも許されて、そして。

 

「だってさ、僕はキミが───」

 

そうやって、また甘やかされ(負け)るんだ。

…故に、

 

「嫌だ」

「嫌だも何も、もうキミのことなんか───!」

「黙れよ」

 

離れていこうと、した。

いくら、自分が従順で、バカなくらい甘えに来る犬であろうとも、それはいささか舐めすぎではなかろうか。

 

「逃げるなよ、ねェ?」

 

この獣を、飼い慣らしたのはキミだ。

この獣を、ここまでにしたのはキミだ。

 

「逃げるなよ」

 

だから、

 

「もう、このまま、腹に収めてしまおうか?」

 

ゆらりと簡単に傾く体を、さっと手を添えてやさしく横たえ。

 

「ああ、でも」

 

そのままに、その首筋に顔を埋め。

 

「このまま食べてしまって」

 

そして、ゆっくりと牙を剥いて。

 

「キミが僕の一部になるとしても───惜しいなあ」

 

だから、もう少しだけ、手加減し(甘え)てやろうか?

 

 

こうして。

誰からも恐れられる『悪魔』である僕は、『英雄』を怒らせてはいけないということを己の身をもって、いま一度、よく知ったのである。

まったく、一番近くにいるものこそ、一番被害を被っているとは、よく言ったものだ。

『英雄』の逆鱗に触れてはならない。

……まあ、もっとも?

 

「キミが僕の一部になるとしても」

「惜しいなあ」

「……なんてさァ?」

 

僕の心情を知ってか知らずか、このバカ(ヒーロー)はそんなことを言うのだから、まったくもって腹立たしい限りである。

 

「舐めるなよ、クソガキ」

「クソガキと言っても、たった一歳違いだろう?」

「減らず口が」

「そっちこそ、そろそろ黙ってよ。泣いて、謝ってくれるならまだ聞けるけどさ」

「ほざけ」





『悪魔』を愛する『英雄』の話。
手放そうとする『悪魔』と、元から手放すつもりなんてないくせに!って掴み続ける『英雄』。
でも『悪魔』が手を離したとしても『英雄』は『悪魔』のことを忘れられないし、『悪魔』自身も忘れさせるつもりなんてないんだよね…。
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