なんで。
『悪魔』だと言われた。
崇拝も受けたし、それと同じくらいに石を投げられた。
だから、だからこそ。
「…ごめんね」
手を離そうと、したのに。
だからこそ、僕はキミが
「だから……ごめん」
そう言って手を離した。
それなのに、どうしてだろう。
『悪魔』と呼ばれた僕を、『英雄』になったはずのキミは離してくれないんだ。
*
「……なんで?」
なんで?
なんでなんだ?
なんで、お前はそんなに強いんだ?
そんな疑問を視線に込めて彼を見るけれど、彼はいつものように笑って言うだけだ。
「だってさ」
……ああ。ダメだ。
その目に見られると、どうにも頭を垂れてしまう。
頭を垂れて、甘やかされたくなってしまう。
甘やかされて、何をするにも許されて、そして。
「だってさ、僕はキミが───」
そうやって、また
…故に、
「嫌だ」
「嫌だも何も、もうキミのことなんか───!」
「黙れよ」
離れていこうと、した。
いくら、自分が従順で、バカなくらい甘えに来る犬であろうとも、それはいささか舐めすぎではなかろうか。
「逃げるなよ、ねェ?」
この獣を、飼い慣らしたのはキミだ。
この獣を、ここまでにしたのはキミだ。
「逃げるなよ」
だから、
「もう、このまま、腹に収めてしまおうか?」
ゆらりと簡単に傾く体を、さっと手を添えてやさしく横たえ。
「ああ、でも」
そのままに、その首筋に顔を埋め。
「このまま食べてしまって」
そして、ゆっくりと牙を剥いて。
「キミが僕の一部になるとしても───惜しいなあ」
だから、もう少しだけ、
・
・
・
こうして。
誰からも恐れられる『悪魔』である僕は、『英雄』を怒らせてはいけないということを己の身をもって、いま一度、よく知ったのである。
まったく、一番近くにいるものこそ、一番被害を被っているとは、よく言ったものだ。
『英雄』の逆鱗に触れてはならない。
……まあ、もっとも?
「キミが僕の一部になるとしても」
「惜しいなあ」
「……なんてさァ?」
僕の心情を知ってか知らずか、この
「舐めるなよ、クソガキ」
「クソガキと言っても、たった一歳違いだろう?」
「減らず口が」
「そっちこそ、そろそろ黙ってよ。泣いて、謝ってくれるならまだ聞けるけどさ」
「ほざけ」
『悪魔』を愛する『英雄』の話。
手放そうとする『悪魔』と、元から手放すつもりなんてないくせに!って掴み続ける『英雄』。
でも『悪魔』が手を離したとしても『英雄』は『悪魔』のことを忘れられないし、『悪魔』自身も忘れさせるつもりなんてないんだよね…。