離しやしない。
我が祖父-ホワイトバックは稀に見るほどに凶暴…らしい。
らしい、というのは基本彼が僕ら家族にはとても優しいからであって、そんな面をまったくもって見せないからだ。
「優しい、良いおじいちゃんなんだけどなァ」
それまで絡んでいたのに、祖父の名を出した途端、脱兎のように逃げ出していくチンピラに、僕はため息を一つつく。
「まぁいいや」
気を取り直して、僕は再び歩き出した。
しばらく歩いて、ようやく目的地が見えてきた。
「ザンさん、います?」
「おー」
入ったのは馴染みの蹄鉄屋で。
整然と…ディスプレイはされていない商品の横を通り過ぎた先の、レジで老年のウマが煙草を蒸かしているのに「体に悪いですよ」といつも通りの苦言を呈すれば、「テメェのジジイだって吸ってんだろ」といつも通りに返される。
「おじいちゃんのこと、知りませんか」
「あ?」
「一週間前の、朝から家居なくて」
「知らねェな」
「……そうですか、ありがとうございます。また来ます」
「おー、気ィつけて帰れや」
ザンさんはそう言って煙草の火を消すと、再びレジ横の新聞を読み始めた。
僕はその背に一礼すると店を出た。
「どこ行ったんだろ……」
祖父の行き先は皆目検討がつかない。
まぁいつものことと言えばいつものことだけれど……。
(でも)
今日だけはどうしても何だか…探し出さなくちゃ、いけないような気がしたのだ。
*
「ふぅ…」
可愛がっている子どもが店の近辺から完全に去った後、『ザンさん』と呼ばれた男は椅子から立ち上がった。
そして明確な足取りで奥へ進むとそこには、
「よォ」
「…」
手と足を縛られ、轡を噛まされ転がされている小柄なウマがいた。
そのウマの名はホワイトバック。
…先程の子どもが探しに来ていた、祖父本人だ。
「そろそろ観念したらどうなんだ?」
ザンさんはウマの轡と手足を縛っている縄を解こうとはせず、ただ見下ろしている。
「……」
ホワイトバックは何も答えない。
いや……答えられないと言った方が正しいか。
彼は今、猿轡に加え、目隠しまでされているのだ。
だから何も見えないし、喋れないのである。
「ったく」
そんな様子にザンさんは呆れて肩を竦めると、そのウマが転がされている床から少し離れた。
すると拘束されているとは思えない動きで、ホワイトバックはザンさんの方へと脚の力だけで、
「ったく、まだ諦めてねェのか」
そう言いながらも彼はウマの拘束をキツくするべく動く。
しかしそんな様子を察してか、ホワイトバックは大きく身を捩って抵抗すると、そのまま床を転がり始めた。
そして壁にぶつかると、再び転がっていき……今度は店の裏口へと向かっていく。
そんな様子を見て、ザンさんはため息を吐くと拘束具の一部を引っ掴んで、元の場所に戻した。
「俺みたいなヤツに執着されて」
可哀想に、
「なぁ?」
欲しい欲しい欲しい!
なのでこうしましたっていう。