しっかと、握りしめる手。
アイツは、笑顔だけは得意だった。
それ以外の怒ったり困ったりした顔は苦手なくせに、笑顔を作る事だけは初めから上手かった。
「ごめん……ごめんなさい、先輩」
なのに、一番辛いはずの当人は笑う。
まるで痛みに耐えるような表情で。
そんなコトを言わせてしまう自分が何よりも憎かった。
……だから、俺は────。
*
───とくん。
そんな音がして、意識が戻った。
暗い部屋。
目の前には白いアイツの背中の背中があって。
寝始めたころはしっかり腕の中にいた体が、まるで遠慮するかのように隅に寄っているのをため息を吐いて引き戻した。
「……」
こうやって眠るようになったのはいつからか。
腕の中のコイツは、ひとりでいさせると泣きながら眠ったり、ひとりでに起きては吐きに行ってしまうから。
「ったく……。そんな不安なら、ずっと俺の腕の中にいればいいだろうに」
そう呟いても返事はない。
ただ規則正しい寝息が聞こえるだけ。
……いやまあ、それもそれで問題だろうが。
「……まいったな」
何が参ったかって、今こうして抱きしめているだけで安心している自分にだ。
こうしていると本当に思う。
コイツはここにいるんだって、もう何処にも行かないんだって解るから。
「……せんぱぃ?」
ふわふわとした声がして、ふと顔を見る。
それは寝言だったのか、それとも本当に起きていたのか。
どちらにせよ、その目は何処か不安そうで。
「ここにいる。何処にも行かないから安心しろ」
そう言って頭を撫でると、まるで猫のようにすり寄ってくる。
……まったく。
コイツがこんなんじゃ俺もうかうかしてられないな、とか思いつつ、また目を閉じた。
・
・
・
俺と親しいと呼べる人は先輩ぐらいしかいないんじゃないだろうか。
学生時代の俺は結構閉じこもり気味で、クラスメイトとも必要最低限の話しかしなかった。
だから寮の同室であった先輩がいろいろ連れ出したり世話してくれなければ俺は今よりももっとダメ人間だったに違いない。
「まったく、おまえは目を離すとすぐに無理するな」
そう言いながらも先輩は看病をしてくれたし、食事を作ってくれたりもした。
そんな先輩に俺は何も返せなくて、ただ世話されるだけになっていたのに先輩は笑ってくれた。
「いいさ。おまえが元気になるなら安いものだ」
そう言って頭を撫でてくれた先輩の手は大きくて温かかった。
だからだろう、俺が先輩に依存してしまったのは。
先輩がいないと不安で仕方なくて、先輩が他の誰かと仲良くしていると胸が痛くなった。
「ああ、そうか」
それが“執着”と呼ばれるモノだと気付いたのはいつだったのか。
ただ、先輩は俺だけのものにはならないのだと理解して悲しくなったのは覚えている。
だって先輩は誰にでも優しくて面倒見が良くて、だから俺は───。
「……先輩」
目が覚めたとき、先輩がいた事が嬉しかった。
先輩が抱きしめてくれると安心した。
でもそれは俺だけじゃないと解っていたから、俺は先輩の前から消えようと思ったんだ。
……なのにどうしてだろう?
「ン、起きたか?」
依存してる自覚が双方にある話。
たぶんエグいぐらいにズブズブそう。