さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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地獄の中でたまに笑おう。



世界はそれでも回っている

僕が明日死ぬなら、いくらかの後悔があることでしょう。

大切な人に冷たくしたこと。

それはすなわち、死を恐れた故であること。

僕が明日死ぬなら、誰に感謝をしよう。

…とは、思っても。

手紙を書くはずのペンは動かないのだけど。

 

僕が明日死ぬなら、未来のことを考えながら死ぬのでしょう。

だってこんな僕の走馬灯よりも、新しい命の方が尊いのですから。

けれど、

 

「約束、してください」

 

あなたは、僕のことが大好きだから。

きっと、自分のことを責めるだろうし、責めるから自分のことを傷つけるかもしれない。

だから、その時は。

 

「僕に触れた時のことを、思い出して」

 

そして。

好きな服を着て、好きなことをしてほしい。

そうしたら僕は、あなたの生きる世界を愛おしく思えるのだ。

あなたが生きるなら、昨日になる今日さえ愛おしいのだから。

 

*

 

僕が明日死ぬなら、あの日の写真を眺めるのはもうよそう。

髪を切ったり、新しい服をおろした時のようにキミに会うことを思い浮かべよう。

僕が明日死ぬなら、そうすぐには気付かれないだろう。

ポストに入った新聞やら手紙が、墓標の代わりになるんだろう。

 

僕が明日死ぬなら、遺される人たちのことを考えよう。

たぶん悲しまれるだろうけど、その悲しみに長い時間浸らないように出来るだけしてほしい。

 

きっと、世界には僕が考えられないような辛いことだってあるだろう。

でもその時は、僕のことみたいな、そんなくだらないことでも思い出してどうにかやり過ごしてよ。

どれだけ辛くても。

ゆっくりと呼吸をして、それで日々に戻っていきなよ。

…たまには、泣いてもいいけれど。

 

・

・

・

 

人馬ともに、『自分が死んでも世界は回る』という考えを根本に持っていたように思う。

自分の影響力なんてほんの微々たるものでしかなくて、自分がいなくなったって世界に与える影響はごく小規模。

だから、自分が明日死ぬなら。

……いや、この考え方はやめよう。

僕が明日死ぬなら、なんて考え始めたらきりがない。

けれど、自分が明日死ぬならきっとこう思うだろう。

『どうせ世界は回る』と。

 

どうせ悲しみも何もかも、一過性のものだ。

多少の古傷にはなるだろうけど、ズキズキと主張する痛みはいつしか日々に洗い流されていくだろう。

自分から古傷を抉る人間なんて、そういない。

誰だって痛いのは嫌だ、不幸なのは嫌だ。

ならば幸せになっていればいい。

それだけで、いい。

 

「たまに思い出すぐらいでいいのさ」

 

泣き続けなんて湿っぽいしね。





イメソン→キタニ.タツヤ『私が/明/日/タヒぬなら』
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