幽霊?
『僕ねぇ、キミが好きだったよ』
夢だった。
夢でしか、なかった。
だって、目の前にいる存在はそんなこと言うわけないのだ。
それを言葉にして伝えれば、困ったように苦笑される。
『本当に、好きだったのだけど』
赤くなった頬を、指先で掻いて。
『照れるね、コレ』とか巫山戯たことを言う。
思わず掴みかかってしまうくらいに純白な衣服に身を包み。
『キミは、幸せになるべきだ』
そんなことを言った。
『僕と出会わなければ、もっと幸せになれたのにね』
そんなことを言ったのだ。
「ふざけるなよ」
声が震える。
いや、声だけじゃない。指先も足も、全身が震えている。
それは恐怖からじゃない。
───怒りからだ。
「なんだよそれ……」
目の前にいる存在が何かをしたわけじゃないことは分かっている。
この夢を見せているのはこいつではないし、そもそもこれは夢であって現実ではないのだから。
夢だとわかっている、夢なのだから。
分かっているから、分かっているのに。
「お前がそれを言うのかよ」
それでも、許せなかった。
『幸せになりなよ』
「お前……!」
掴みかかったところで、その幻影が消えることはない。
それどころか、まるで巻き戻したように。
さっきと同じ言葉を吐いて。
『幸せになりなよ』と。
もう、限界だった。
「じゃあ、なんで」
なんで、あの時。
「こたえて、くれなかったんだ」
たくさん伝えた。
自分でも呆れるほど、周りにとっては名物になるほど。
お前と一緒に生きていたいと。
トレーニング漬けの日々の中で、必死にどう言えばお前は喜ぶだろうと。
ずっとずっと、考えていたのに。
ずっとずっと、伝えていたのに。
「なんで、応えてくれなかったんだよ……!」
『僕も』と。
その一言で良かったのだ。
それだけで、自分は幸せになれたのだ。
なのにどうして、それを言ってくれなかった。
なんであの時も今も、お前からその言葉を聞けないんだ。
「……お前は」
視界が滲む。
もう限界だった。
「俺のことが嫌いだったのか?」
震える声で問いかける。
夢だと分かっているのに、夢でしかないのに。
どうしても。
・
・
・
そうして、夢の登場人物は。
己の目の前でうずくまる夢の主を静かに見つめた。
その瞳にはどんな感情が浮かんでいただろう?
悲しみ?
それとも────。
『好きだったよ』
また、告げる。
登場人物には、それしか告げることができない。
『キミからの言葉、嬉しかった』
どれほど否定されても。
「どこかへ行け」と言われても。
『好きだったよ』
『キミのことが────』
もしかしたら、ホンモノだったのかもね。