大切に、大切に。
ぎゅうと抱き締められているのに目覚めた瞬間には気付けなかった。
「え、あ……」
「おはよう」
「……お、おはようございます……あの、もう朝?」
「まだ暗いね。でもそろそろ起きる時間かな」
そういえば最近もこんな風に起こされた事がある気がする。
あれはいつだっただろうかと寝起きの頭で考えるが思い出せない。
そうこうしている内にグローリーゴアは僕を抱き上げて部屋の外へ出て歩き始めた。
「グローリー、珍しいね」
「なにが?」
「いつもあんなに寝起き悪いのに」
「あぁ、うん。そうだね」
グローリーは僕の言葉にくすくすと笑い出す。
その笑顔を見て僕は何となく嫌な予感がした。
「……何か企んでる?」
「いいや?何も?」
「本当に?」
「本当だよ」
笑いながら廊下を歩くグローリーゴアに抱えられたまま食堂へ到着する。
扉を開けた瞬間に香ってきたのは朝食の匂いではなく煙い香りだった。
「…焦がした?」
「ごめんね」
「はやく起こしてくれたらご飯作ったのに」
「……たまにはね」
テーブルにはグローリーゴアが用意したであろう朝食が並んでいる。
しかし何故かスープは名状しがたい色でパンは炭のようになっていた。
「ごめん、焦がしちゃった。でもちゃんと食べられるよ」
「まぁ焦げてても食べれるけど……どうしたの?何か変だよ?」
「そうかな?」
そう言いながらもグローリーはどこか嬉しそうだ。
僕は不思議に思いながら席に座り目の前に並ぶなんとも言えない料理を食べ始める。
そんな僕を満足気に見ながらグローリーゴアはコーヒーを飲んでいる。
(意外と…普通の味、かな?ちょっと味が濃いぐらい?)
「ねぇ、グローリー」
「なに?」
「今日って何か予定あったっけ……?」
「……いや?今日はずっと部屋にいるよ」
(あ。これは……)
嫌な予感が確信に変わる。
僕は急いで食べ終えて席を立った。
そのまま食堂を出ようとする僕の腕をグローリーゴアが掴む。
「どうしたの?」
「僕ちょっと用事思い出したから……」
「……そう」
笑顔のはずなのにその笑顔が怖いと感じることがあるなんて知らなかった。
いや、笑顔だからこそ怖いと感じるのかもしれない。
僕はグローリーゴアに腕を掴まれたまま食堂を出て部屋に戻った。
「あの、ちょっと……離して」
「どうして?」
「えっと、その……」
抱き締められた状態では上手く言葉が出てこない。
そんな僕を見下ろしているグローリーは先程までの笑顔を消して無表情で僕を見ている。
「……ねぇ、ずっと一緒にいようねって言ったよね?それなのにキミは約束を破ってどこかへ行こうとした」
(こ、こわい)
いつもの優しい様子からは想像もつかないような冷たい声に僕は恐怖を感じる。
グローリーゴアは無表情のまま僕を見下ろしている。
「ねぇ、聞いてる?」
「……えと」
「キミが約束を破るなら……僕だって約束を破っちゃうよ……?」
(それは駄目だ!)
グローリーゴアが何を仕出かすか分からない。
故に僕の身の安全とグローリーゴアの約束を天秤に掛けるまでもない。
僕は慌てて口を開く。
「あの、今日はずっと一緒にいるから……だから……」
「……本当?」
「う、うん」
僕が頷くとグローリーゴアは嬉しそうに笑う。
その笑顔を見て少し安心すると同時に嫌な予感もする。
しかし今更撤回はできないので大人しくするしかないだろう。
そんな僕を見てグローリーは満足そうにしている。
(……これはこれで可愛いけど)
どこへも行かせない。