夢…だよな。
びくんと体を震わせる。
その理由は「せんぱい?」と舌っ足らずの可愛い口調であるけれど、手つきは明らかに「先輩」を慕う後輩のものではない。
そう、まるでかよわいペットを愛でるような手つきで、俺の肌を撫でてくるのだ。
「な、なにを……」
「なにって……ぼくから離れようとするから」
「……は?」
思わず素っ頓狂な声を上げると、彼はくすりと笑ってもう一度言った。
「だからぁ~、『離れようとするから』だって言ってるじゃないですかぁ~」
……いやいや待て待て。
落ち着け俺。
これは何かの間違いだ。
きっと夢に違いない。
こんな可愛い後輩がこんなこと言うわけがない。
いや、ちょっと危うい時もあるけれど、それでも……。
「せんぱい?なに考えてるんですかぁ?」
「……いや、別に」
「そうですか。でもぉ、『離れようとしないで』くださいよねぇ~」
「え……?」
その瞬間。
彼の瞳から光が消えた気がした。
いや違うな。
消えたんじゃない。
吸い込まれるような……飲み込まれるような……そんな感じだ。
そんな俺の思考をよそに彼は続ける。
まるで幼子に言い聞かせるようにゆっくりとした口調で。
「せんぱいはぼくのモノなんですからぁ~離れるなんて…ねぇ?」
「…【飛行機雲】?」
「ハイ!先輩の可愛い【飛行機雲】くんですよ?」
「いや、それは知ってるけど……」
「じゃあいいじゃないですかぁ~。ぼくは先輩と一緒がいいんですっ!むしろ離れたくないんです!」
「そ、そうなのか?」
「はい!なので先輩はぼくのモノなんです」
「……は?え?」
「だからぁ~……何度でも言いますケド。ぼくから離れようとしないでくださいね?」
いやいやいやいや。
おかしいだろ。
なんでそうなるんだ?
そもそもなんで【飛行機雲】がここにいるんだよ?
その疑問も全て吹き飛ばすような笑顔で彼は言った。
「ま、先輩のこと食べちゃいましたから。その責任を取るって話ですよ」
「は?」
「あ、先輩。そろそろ時間ですよ」
「……へ?」
【飛行機雲】がそう言った瞬間。
まるで霧のように俺の目の前から消えていく……いや違うな。
これは……夢だ。
俺は夢の中にいるんだ。
ああ、そうかそうだとも!
だからこの意味不明な出来事も全て夢なんだ!
そう理解した途端、俺の意識は急速に浮上していったのだった……。
・
・
・
「あ、先輩起きました?」
「…あ?」
「朝ごはんできてますよ〜。…とはいっても、出来合いものばかりですが」
「……え?」
「さ、早く食べましょ。今日はお買い物に行くんですから」
……あれ?
俺は確か……【飛行機雲】に……?
いやでも、あれは夢だったはずで……。
「あ!もしかして先輩……」
「は?」
「僕の作った料理が食べられないとか言うんですか!?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
「なら良かったです!ささっ、冷めないうちに食べましょう!」
そう言って彼は俺の手を引いて…。
たぶん夢。
きっと、メイビー…。