私、『櫛田桔梗』は承認欲求の塊である。
同性の中でも恵まれた容姿であることを、私は物心ついたときには理解していた。人よりも記憶力が良かったから勉強だってできた。運動も得意だし、おしゃべりにも自信がある。手先だって器用だし、とっさの出来事に対応する賢さも持っている。
じゃあ、私は完璧な人間だろうか?
そう問われれば答えはノーだ。
私より可愛い子は存在するし、勉強や運動でも1番になれなかった。私は身近な誰かに負ける度、感情が大きく揺さぶられる人間だった。一つ一つのことに負けるたび、私の心には闇がうまれた。激しいストレスで吐いた事もある。
だから私は逃げ道を探した。この苦しみから逃げ出すために。誰にも負けない物が欲しい。尊敬と羨望が欲しい。
そんな私が辿り着いた答えは……誰よりも優しく誰よりも親身になる事で、誰よりも多くの『信頼』を得ることだった。感情を押し殺して、偽りの笑顔、偽りの優しさを振りまいた。
そして、私は人気者になった。誰からも好かれる人間になって、他の人には負けない存在になれた。
ただ、
今ではそれも人生を彩るためのスパイスにすぎない。
中学生の時、心に莫大なストレスを抱えた私はそのストレスを解消するために匿名のブログで吐き出した。それが偶然にもクラスメイトに見つかったが、ある生徒が犠牲になる事でこの件は有耶無耶なまま終息した。
一度拒絶されたクラスメイトと同じ高校に進む気が起きず、担任の勧めるまま東京高度育成高等学校に進学した。
そして、学校に向かうバスの中であの腐り目とアホ毛を見つけた時、私は歓喜した。
『比企谷くん……私はあなたの1番になれるかな』
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「えー新入生諸君。私はDクラスを担任することになった茶柱佐枝だ。普段は日本史を担当している。この学校には学年ごとのクラス替えは存在しない。卒業までの3年間、私が担任としてお前たち全員と学ぶことになると思う。よろしく。今から一時間後に体育館にて入学式が行われるが、その前にこの学校における特殊なルールについて説明しよう。今から資料を配布する。」
「今から配る学生証にはポイントが振り分けられており、ポイントを消費することによって敷地内にある施設の利用や売られている商品の購入が可能だ。まあ、クレジットカードだと思えばいい。敷地内で買えないものはなく、また学校内でもそれは同様だ」
「それからポイントは毎月1日に自動的に振り込まれることになっている。お前たち全員に10万ポイントが平等に支給されているはずだ。なお、ポイントは1ポイントにつき1円の価値がある。それ以上の説明は不要だろう」
「意外か? 最初に言っておくが、当校では実力で生徒を測る。倍率が高い高校入試をクリアしてみせたお前たちにはそれだけの価値があるということだ。若者には無限の可能性がある、その評価のようなものだと思えばいい。ただし、卒業後はどれだけポイントが残っていても現金化は出来ないので注意しろ。仮に百万ポイント……百万円貯めていたとしても意味は一切ない。ポイントをどう使おうがそれは自由だ。男子だったら最新鋭のゲーム機が売られているぞ? 女子だったら様々な服屋があるぞ? 自分が使いたいように使え。逆に使わないのも手だな。もしいらないのならば友人に譲る方法もある。……ただし、苛めはやめろよ? 学校は苛めに敏感だから、もし発覚したらそいつには厳重な処分が下る。では、良い学生ライフを過ごしてくれ」
茶柱先生はそう締め括って、喧騒に包まれる教室から立ち去った。
「ねぇねぇ、帰りに色んなお店見て行かない?
買い物しようよ」
「うんっ。これだけあれば何でも買えるし。
私この学校に入って良かったな〜」
10万という大金を得た喜びに浸り、浮き足立つ沢山のクラスメイト。その中で俺は先生が言った事を振り返る。要点は3つ。
・敷地内で買えないものはなく、学校内でもそれは同様
・ポイントは毎月1日に自動的に振り込まれる
・当校では実力で生徒を測る
ポイントで買えないものはないというのは現段階で未知数だが、この10万ポイントは入学祝であり、これからの生活に必要最低限購入が必要なものの資金として配られたものだろう。普段の生活では3万ポイントもあれば最低限の生活はできる。浮かれて無駄遣いは止めておこうと考えていると
「皆、少し話を聞いて貰っていいかな?」
やや大きめな声が出された。
スッと手を挙げたのは、如何にも好青年といった雰囲気の生徒だった。
「僕らは今日から同じクラスで過ごすことになる。
だから今から自発的に自己紹介を行って、
一日も早くみんなが友達になれたらと思うんだ。
入学式まで時間もあるし、どうかな?」