22時45分。深夜の海を船は進む。
「……お待たせ」
遠慮がちにやって来たのは、軽井沢恵。その表情はどこか今までとは違うようにみえた。
「遅い時間に呼び出して悪かったな」
「ううん、それはいい……」
「あ、えっと……本当に上手くいったのかなって思って」
「大丈夫だ。間違いなくAクラスの人間がオレの名前を書いてメールを送っている。」
「どうしてそう言い切れるわけ?」
「試験お疲れ様二人とも。座ってもいいかな?」
背後から近づいてきた存在に軽井沢は肩を飛び跳ねさせるように驚いた。先日別れると怒鳴ってしまった平田だったのだから。
「もちろんだ。」
「そろそろ時間だね。堀北さんはまだなのかな?」
「あ、きたみたい。」
「待たせたわね。」
「これで全員かしら?」
「まだだ。もう少し待ってくれ。」
少しして比企谷と櫛田があらわれる。
「……帰っていいか?」
「あっ。みんな揃ってるんだ〜。試験お疲れ様♪」
「なぜ、あなた達がここにきたのかしら?」
「オレが呼んだからだ。比企谷も少し付き合ってくれ。」
「はぁ〜。分かった。」
「やっぱりここにいたのか」
「龍園……」
「お前と結果を楽しもうと思ってな。分かりやすい場所にいてくれて助かったぜ。」
「もうすぐ結果発表だが、手応えはあったか?」
「それなりにね。あなたの方も随分と余裕そうね。」
「クク。そうでなきゃわざわざ出向いたりしないさ。」
堀北が龍園の言葉に反応しようとすると
「やめておけ鈴音。今余計なことをすれば恥をかくのはおまえだぜ。俺はグループの優待者が誰だかわかっていたんだからな」
「それは良かったわね。結果が楽しみね。」
「結果を待たなくとも、辰グループの優待者が誰だったか教えてやってもいいぜ。」
「……だったら教えてもらいましょうか。辰グループの優待者は誰だったのか。」
「櫛田桔梗」
その瞬間、櫛田がわずかに驚きの表情を見せる。
丁度そのとき時刻が23時を迎え、生徒の携帯が一斉に鳴った。
子(鼠)―――裏切り者の正解により結果3とする
丑(牛)―――裏切り者の回答ミスにより結果4とする
寅(虎)―――優待者の存在が守り通されたことにより結果2とする
卯(兎)―――裏切り者の回答ミスにより結果4とする
辰(竜)―――試験終了後グループの全員の正解により結果1とする
巳(蛇)―――優待者の存在が守り通されたため結果2とする
午(馬)―――裏切り者の正解により結果3とする
未(羊)―――優待者の存在が守り通されたため結果2とする
申(猿)―――裏切り者の正解により結果3とする
酉(鳥)―――裏切り者の正解により結果3とする
戌(犬)―――優待者の存在が守り通されたため結果2とする
亥(猪)―――裏切り者の正解により結果3とする
以上の結果から本試験におけるクラス及びプライベートポイントの増減は以下とする。
cl、prという単位がポイントの後ろについてあるが、これはそれぞれのクラスポイントとプライベートポイントの略称でもあった。
Aクラス……マイナス200cl プラス200万pr
Bクラス……変動なし プラス250万pr
Cクラス……プラス150cl プラス550万pr
Dクラス……プラス50cl プラス300万pr
「Cクラスが……トップ……」
結果に愕然とする堀北たち。
「いいな、その表情。なかなか色っぽいぜ。」
「腐り目。優待者の情報感謝するぜ。」
「っ!比企谷君!!」
「別に口止めはしてないしな。事実だ。」
「それより龍園。これで契約は成立した。約束通りポイント振り込んでくれ」
「あぁ。今後もよろしく頼むぜ。」
「鈴音。次はお前の番だ。楽しみに待っておけ」
そう言って龍園は去っていった。
「比企谷くん!どういう事か説明してもらえるかしら?クラスを裏切ってたの?」
「裏切ったつもりはないが?」
「龍園くんへ優待者の情報渡したのでしょう?」
「その結果、Dクラスに何か不利益があったか?ないだろう?辰グループに至っては結果1だ。平田も最初に目指したいって言ってたじゃないか。」
「俺からみれば優待者を間違えた池のほうが裏切り者だろう?池がお咎めなしで俺が糾弾される謂れはないはずだ」
「それは結果論よ。」
「結果が全てだろ」
「綾小路悪い。俺いくわ。」
「あぁ。来てくれてありがとう。」
「櫛田。帰るぞ。」
「うん。分かった。じゃあ、皆また明日ね♪」
……
綾小路side
「堀北。比企谷の件、どう思う?」
「龍園くんと取引をするなんて常識を疑うわ。クラスを裏切ったのも同然ではないかしら」
「意図がどうあれDクラスにマイナスは生じてない。また、辰クラスが結果1なのも龍園と比企谷のおかげだろう」
「今回、お前はこれ以上の結果を残せたのか?」
「わっ。わかっているわ。」
「Aクラスになる為に比企谷と櫛田の協力を得ることは必須だ。そのことは理解しておけ。」
「っ。」
この試験彼らの動きは全くの予定外だった。比企谷と龍園か。
オレに『面白い』という未知の感情が芽生え始めていた。
……
比企谷side
「は〜ち〜ま〜ん!!!」
「なっ……なんですか?櫛田さん??」
「説明してくれるよね??」
「え……えっと……信じてくれるのでは?」
「もちろん何があっても八幡の事は信じているよ。」
「でも、信じる事と説明を求める事は矛盾しないよね?」
「で、どこから聞きたい?」
「最初から♪」
「優待者である事を堀北と平田には話しとけ。と言ったが、あれが最初だ。」
……『休息日。俺は龍園と会っていた。
「なんだ?腐り目。オレに何のようだ?」
「話し合いの時に言ってただろ?この試験、手を組もう。」
「こちらから提示できるのはDクラスの優待者1名分だ。それでこの試験Dクラスへの敵対行為をやめてもらいたい。」
「話になんねえな。そんな条件、俺が飲むと思ってんのか?」
「今なら可能性あるだろ」
「無人島試験の結果、お前は失敗した。1度の失敗ぐらいでは立場は揺らがんだろうが、早めに挽回しておいて損はない。」
「現状、AクラスとBクラスは優待者の法則を探そうとはしていない。Dクラスに至っては優待者を共有する事すらできていない。存在をアピールしつつ一人勝ちする。そんな機会、次にいつあるかわからん。俺はお前が法則に気づきつつあると考えている。答え合わせにサンプルはひとつでも多いほうがいいはずだ」
「それに今Dクラスを攻撃しても面白くないだろ?」
「……優待者2名分それが条件だ。」
もう一人かぁ。あいつに聞けばわかるか。
「分かった。それでいい。
あと、教えた情報に誤りがあった場合、俺は退学を条件にする。そちらも裏切った場合は相応のペナルティにしてもらうぞ。」
「ちっ。わかったぜ。」
俺たちは星乃宮先生立ち会いのもと誓約書を交わした。なぜ、星乃宮先生か?は単純に俺が頼みやすかったからだ。
「さて、次だ。」
「なんだ?まだ、あんのか?」
「何、簡単な相談だ。俺とお前で辰グループ 結果1を目指さないか?」
「説明しろ」
「辰グループの優待者はDクラスだ。
俺達は既にBクラスとは協力関係にある。Bクラスの説得は俺がする。
お前にはAクラスを担当して欲しい。
報酬は『結果1』。ペナルティはなし。悪い話ではないだろ?」
……というわけだ。』
「Bクラスはどうやって説得したの?」
「Bクラスだぞ。「間違っていたら退学してもいい」と言ったら無条件で受け入れてくれたぞ。なんのデメリットもないしな」
「一之瀬さんならそうなるか」
「これで全てだ」
「比企谷君」
櫛田は珍しく真面目な顔で話しかけてきた。
「1つ約束してくれないかな?今後は退学するって簡単に言わないで」
「なんでだ?今回はそれが効率的だったってだけだろ」
「比企谷君の為に言ってるんじゃないよ。私の為。」
「ダ…メ…かな?」