勉強会の帰り
5人でコンビニの外に立って、アイスを食べる。
「そもそもコンビニは単価が高い。少しいけば同じ商品でも数十円違う。もう少し効率の良い買い方をしたらどうだ?」
幸村はアイス以外に日用品を買い込んだ長谷部の買い物袋をみて指摘する。
「もしかしてゆきむーって原価厨?」
「ずっと気になっていたんだが、ゆきむーってなんだよ」
「幸村くんだからゆきむー。私仲良くなるとあだ名から入るから。みやっち、ゆきむー、ひっき「すまん。それだけは止めてくれないか」」
「あだ名嫌だった?」
「いや。ヒキガエルよりはマシだが、昔を思い出す。
今、言おうとしたもの以外にしてくれないか?」
「う〜ん……」
「比企谷八幡だ」
「じゃあ、ハチ君?」
「それなら構わない。」
「あらためてハチ君それからあやのん。
んー、なんかあやのんってしっくり来ないけど」
「ゆきむーとかもやめろ。恥ずかしいから」
「嫌なの?」
「……そうは言ってない。
公衆の面前でゆ、ゆきむーはちょっとな…」
そう言って止める幸村だが、長谷部は割と真顔で幸村に返してきた。
「悪くないかもって思い出したわけ、こういう関係も」
「私もみやっちもさ、
結構一人でやってきた系じゃない?」
「ま……そうだな。否定はしない」
「いざメンバー組んでみたら、思いのほか居心地が良いって言うか。ゆきむーもあやのんもハチ君も基本的には友達が少ないわけだしね。二学期も半ばになっちゃったけど、この勉強会を通じて新しいグループを作りたいって思った。だから時間を取り戻すって意味じゃないけど、早く打ち解けるためにあだ名とか下の名前で呼びたいと思った。みんなはどう?」
そう提案してきた。俺達が答えられないでいると三宅がそれに続いた。
「そうだな。悪くない、というか驚くほどこのグループに馴染んでいる気がする。須藤たちとは馬があわない。平田は少し別枠って感じだしな。基本女子に囲まれているし」
「でしょでしょ?ほかはどうなわけ?」
「元々俺は二人の勉強をみるために一緒にいる。それが終わったらこのグループはお終いだ。けど…テストは今回で終わりではない。三学期はもちろん。卒業するまで続く。なら、効率化の為にも認めて構わない。」
「なにそれ、わかりにくっ。でも…ありがと」
「ふ、ふん。退学者をだしてこれ以上クラスの評価を下げない為だ。」
あぁ。これが俺が言われている捻デレってやつか。
客観的に見ると恥ずかしいな…。
「ハチ君は?」
「普段の生活に義務や制約が発生するなら断る。」
「うんうん。私もそういうの嫌だからね。集まれる時に集まれる人だけでいいんじゃない。みやっちは部活もしてるしね。そのほうが私達らしいでしょ」
「後はあやのんだけだね。あ、でも堀北さんとはグループだから難しい?それに池くんや山内くんともよく遊んでるしさ」
「クラスメイトに優劣はつけないが、少なくともオレとはタイプが違って合わせられない面があった。ここにいるメンツは無理をしないでいいというか、楽だな。正直。堀北とは特別グループって訳でもない。」
「それに一番親しいのは比企谷だ。
比企谷がグループに所属するなら否もない。」
「そうなの?いつから?
そんな素振り全く見えなかったけど…」
「一学期の後半ぐらいからか?」
「そうだな。だいたい俺の部屋でチェスをしていて、外には出んからな。誰かに見られる事もなかったんだろ。」
「それで助っ人が比企谷だったんだな」
「ハチ君がきた時、
連絡先を知っている人がいた事に驚いたよ。」
「じゃあ、これで決まりって事で。
これから私達は綾小路グループってことでヨロシク」
「待て。なんでオレ中心なんだ?」
「俺達に異議はない。」
俺に続き三宅・幸村も同調する。
「それからグループ発足にあたってひとつ。
堅苦しい名字は禁止にしようよ」
「禁止するのは勝手だが俺はみ、みやっちとか…あ、あやのんとは呼べないぞ。恥ずかしい。それ以前にバカみたいだろう」
俺達が『みやっち』と呼ぶのは確かに違和感がある。
「名字があだ名じゃダメなのか?既に『山内』『池』なんてあだ名みたいなもんだろ。」
「ダ〜メ。じゃあせめて下の名前ね。ちなみに私は波瑠加。呼びたいように呼んでくれていいよ。」
「じゃあ…キュアフロー「チェンジで」」
今、呼びたいように呼んでっていったよね?
「みやっちって、下の名前なんだっけ」
「明人だ」
「…テンカ「普通に呼べ!」」
「明人かそれならなんとか。綾小路は清隆だったよな」
幸村は下の名前を覚えていてくれたようだ。
「仲太「誰にもわからん」」
「確か幸村の下の名前は輝彦だったよな」
すると何故か途端に幸村の表情が曇る。
「下の名前て呼ぶのは承諾した。けど、俺を輝彦と呼ぶのはやめてもらえないか。その名前が嫌いなんだ。俺としても出来ればこの場の空気を壊したくない。だからもし不都合がなければ、今後は啓誠と呼んでほしい。これも小さい頃から使っている名前だ」
「嫌な呼び方するのは私も本意じゃないし、
別にいいんじゃない?」
「そうだな。それじゃあ改めてよろしくな啓誠」
長谷部の言うように、気にせず希望する名前のほうで呼んでいく事を決める。
「悪いなわがまま言って。
……清隆、明人、八幡。それに波瑠加」
幸村から全員が改めて下の名前で呼ばれる。
「それにしても清隆かあ」
波瑠加はなにやら引っかかったらしい。
「あやのんじゃなくてきよぽんかな。
うん、そっちのほうがしっくりくるし確定。
ゆきむーも一緒にそう呼ぶ?」
「呼ばない。清隆に決まってるだろ恥ずかしい」
「ハチ君はどうする?」
「きよぽんでいいぞ」
「頼むから清隆にしてくれ」
「じゃあ、全員名前も把握したところで改めて。5人でグループってことで……」
「ああ、あぁ、あのっ!」
ソレと同時に立上がる一人の生徒。カチコチに緊張した状態で歩きだすと、ロボットのような動きで俺たちの傍らにまでやってきた。
「佐倉?」「地味眼鏡美少女?」
一人を除いてほぼ同時に名前を呼ぶ。
「わた、わたし、私も綾小路くんのグループに入れて!」
「グループに入りたいという事は
赤点の不安があるということか」
努めて冷静に啓誠は佐倉の来訪を分析する。
「俺としては堀北のグループに参加するべきだと思う」
「ち、違うの…私も、純粋に綾小路くんのグループに、入りたくって!」
顔を露骨に赤くなっており、視点も全く定まっていない。
俺は周りのメンバーを見渡す。
あっ?あれ?これって普通に告白なんじゃないのか?え…えっ?違うの??危ない所だった。もし、俺がきよぽんだったらそのまま「じゃあ。付き合うか」とか勘違い発言をして、「何言ってるの。きもっ」ってフラレたあげく、次の朝、号外で全校生徒に配られるまである。
「いいんじゃないか?佐倉が加わっても。
なんか合いそうだしな」
こ…これが正解だったのか…。わからん。
「いいのか。そんな簡単で」
「1人増えてもそんなに変わんないだろ。クラスのはぐれもの同士、ちょうどいいと思ったんだが。違ったか。」
「はぐれもの同士、か。そうかもな」
はぐれもの同士…かっこいいな。
「啓誠もいいか?」
「反対する理由はない。
けど、これ以上増やすのはやめてくれ」
「あ…ありがとう、三宅くん…幸村くん…」
多少条件派ついたものの、啓誠も承諾した。残るは波瑠加だ。一番楽に迎え入れてくれそうな印象だったが、その表情に笑顔はない。
「悪いんだけどさ佐倉さん。このままじゃ納得できないんだよね。このグループに参加する以上、下の名前で呼ぶかあだ名で呼ぶことを義務付けるつもり。つまり佐倉さんあらため、え……っと、下の名前なんだっけ」
「愛理だ」
清隆が補足する。
「皆から愛理って呼ばれることになるし、他のメンバーも呼んでもらう事になる。大丈夫なの?」
『義務や制約があるなら断る』って言ったはずなんだが…
「え、ぇっと…」
「け…啓誠くんに明人くん、八幡くんに波瑠加さん」
「呼び捨てにする必要はないだろ?」
「そうだね。下の名前なら合格かな。
さ、あとはきよぽんだけだね」
「き…清隆くん。宜しくお願いします」
「うん。合格。私も愛理が入ってくる事に賛成」
これで満場一致?佐倉の加入が認められる。
佐倉はあだ名じゃないのか…。基準がわからん。
「じゃあ、もう一度改めて。
この6人がきよぽんグループってことでヨロシク」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いつ誘ってくれるのかな?」
「なんにだ?」
「八幡がはいったグループにだよ。
私もいいよね?」
「啓誠がこれ以上増やさないと言ってたぞ。
それにどこかのグループにはいるタイプじゃないだろ」
「確か…幸村くん、三宅くん、きよぽんに
長谷部さんと佐倉さんだったよね」
「…………………」
そう言うと櫛田は何か考え出した。
「ふふふふっ」
しばらくすると不敵に笑みを浮かべた。
「よしっ!今度遊びに行こう。八幡♪」
※櫛田桔梗がアップをはじめました。
ゆきむー……あやのん……危うくユキペディアさんが召喚される所でした。