存在X
12月も半ばを経過した。放課後のケヤキモールの一角。休憩スペースに集まったのは綾小路グループの明人を除く5人。
「結局どこのクラスからも退学者は出なかったんだな。そろそろCクラスあたりがやらかすんじゃないかと思ってたんだが。」
「こっちの作った問題は簡単じゃなかった。それに最初が八幡のやつだろ。出鼻は挫けたはずなんだがな。」
「Cクラスとか私達以上に勉強できなさそうだもんね」
携帯を弄りながら波瑠加は即答する。
そして報告を入れた。
「もうすぐみやっち来るって。今部室出たみたい」
「でも試験で勝てたからよかったんじゃないかな…?
別のクラスでも退学する人がでるのは嬉しくないな」
手荒な事を好まない愛里は、素直な気持ちを口にする。
「例えばさ、裏技的な方法ないの?最後の試験でクラスポイントが全て一緒になるとか。それでめでたく全部がAクラスで卒業。なんてことになったりして」
「残念だがそれは無理だと思うぜ。部の先輩が言ってたがクラスポイントが一緒の場合、クラスを決めるための特別試験が行われるらしい」
そう答えながら明人が合流した。
「話を変えるようで悪いんだが少し気になる事があった」
その口調はやや苛立ちを含んでおり、周囲を睨みつけるようにこう口にした。
「最近Cクラスの様子おかしくないか」
「Cクラスの様子?
いつもおかしいけど、なに、どういう事?」
波瑠加が不思議そうに首を傾げる。
「ここ数日、俺達をつけまわす連中のことか…」
俺は読んでいた本を閉じ、そう答えた。
それから少しCクラスについて話をすると啓誠はちょっかいを出してくる理由をこう分析した。
「Dクラスの成長に関係があるんじゃないか?今回のペーパーシャッフルの結果もあって、3学期からはついに俺達がCクラスにあがるかもしれない。相当焦っているはずだ。」
「そういえばそうだね。あれだけ馬鹿にしていた私達に追い抜かれそうだとね!」
「クラスの変動はこの学校にとって避けては通れない問題だが、そう頻繁に起こるものではないと思う。と、なれば最初大きく転んだDクラスが成長してきたことはCクラスにとって焦る理由になるし、成長してきた理由を探ろうとしていると考えれば頷ける」
「なるほどな。あいつらの必死さも分からなくないか。」
少し溜飲を下げたのか、明人も同意した。
そして、話題は次に移行する。
「折角集まったんだし、皆で晩御飯食べて帰らない?」
特に反対意見がでる事もなく、俺達はグループとして移動する。その後、なぜか桔梗が合流していたのは言うまでもない。
……
「あの猿達何が目的なんだよっ、遠くからチラチラと!
あ〜うっとおしい。」
「苛つかせるのが目的なんだろ。無視しておけ。無視。」
「どうしても人目は気になるよね?私それ命じゃない?」
「あーそうなるのか?」
「八幡も人の視線苦手だよね。というか死活問題?」
「俺はXの候補から外れてるからな。問題ないぞ」
「え〜八幡明らかに怪しいよね?ずるくない?」
「夏休みの試験で龍園と取引しただろ。
俺がXなら直接交渉はせん。
それに目の前で堀北とやりあってるからな」
「あったね。そんな事。」
「結局…Xってきよぽんだよね?」
「多分な」
「猿達うっとおしいから売っちゃう?」
「あいつ敵に回したら学校にいれなくなるぞ」
「そんなになの?」
「そうとうヤバイぞあいつ。底がみえん。」
「櫛田はCクラスに何か対策してるのか?」
「みんな知ってる子だからね〜。
私からオハナシしたらすぐにいなくなるよ。」
「お前も十分ヤバイな…」
……
それからもCクラスからの嫌がらせは続き、龍園と高円寺との対決?もあったが学校行事としては大きなものはなく二学期の終業式の日を迎えた。
それにしても、高円寺は無いだろう。あいつがXなら無人島試験があの結果にならないのは明白だ。リタイアの時点であそこまで先読みできるのは神か転生者ぐらいだろう。そんなのここにはいない。
教室では茶柱先生から冬休みの注意事項が説明されていた。
「冬休み中、校内の一部は改修のため立ち入り禁止となる。その点を忘れないように。それから今日は終業式で部活も休みだ。出来る限り早く帰宅するように」
必要なことだけを説明し終えた先生。しかし、今日はそれで終わらなかった。
「既に把握している生徒も多いと思うが、おまえたちのCクラス昇格はほぼ間違いないだろう。よくやった」
「だが、油断はしないことだ。冬休み中に大きな問題をおこせばクラスポイントに影響を与えることもある。長期休みでも学生としての本分を忘れないようにしろ」
そう告げ、茶柱先生は二学期を締め括った。
「ケヤキモールによっていこうって話になっているんだが、どうする?」
帰り支度を整えた啓誠が近づいてきて、俺にそう言った。
「今日はパスだ。」
「そうか。櫛田か?」
「別件だ。悪いな。また、声をかけてくれ」
そう言って、みんなより先に教室を後にした。
14時30分になり俺は指定された場所で待っていると綾小路がやってきた。
「待たせたか?」
「いや。大丈夫だ。
わざわざ呼び出すなんて何のようだ。」
「…………」
清隆は出会った頃のような無機質な目をこちらに向ける。
「今頃屋上で龍園が軽井沢を呼び出して
ショーを始めている」
「…龍園が軽井沢を?ショーって何の事だ?」
「八幡は知らないだろうが、
軽井沢は過去壮絶な虐めを受けてきた」
「そして、恐らく明日以降この話は学校中に蔓延する。
そうなれば軽井沢は自ら殻に閉じこもり
退学を選択するかもしれん」
ガンっ!気づけば俺は綾小路の胸ぐらを掴み壁に押しつけていた。
「それを知っていてお前は何をしている!!」
「まだ、準備が整っていない。
それに今助けるのは非効率だ」
「こんな時に効率とか関係ねぇだろ!」
「…………」
「ちっ。」そう言って俺は綾小路から手を話した。
「助けにいかないのか?」
「俺が行っても役にたたん事ぐらい分かっている。
何を考えているか知らんがお前の邪魔をするだけだ」
「やはり比企谷を選んで正解だったようだ」
「で、わざわざ俺を呼び出したのはなぜだ?」
「さっき、石崎がバケツに大量の水を汲んでいったのを見かけた。床に落ちている水滴から何度か往復したんだろう。」
「おっ…おいっ!」
「お前と櫛田には戻ってきた軽井沢の介抱をお願いしたい。」
「ばっ。もっと早く言え!」
俺は慌てて櫛田に電話した。
『電話してくるなんて珍しいね?』
『桔梗すまん。緊急だ。タオルと簡単でいい着替をもって来て欲しい。頼めるか?』
『もちろんだよ。どこにいけばいい?』
俺が櫛田と電話している間に眼鏡先輩がやってきたようだ。二人が何度か会話を交わした後、
「10分か20分か。それくらいで戻ってくる。」
そう言って綾小路は屋上へ向かった。
…
「はぁ。はぁ。八幡間に合った?」
「あぁ。大丈夫だ。」
「よかったぁ。で、堀北先輩もいるけど、どういう状況?」
「かくかくしかじかまるまるばつばつだ。」
「実際の所、俺が軽井沢にできる事はないからな。
全てまかせることになるがいいか?」
「もちろんだよ。クラスメイトのピンチだしね。
でも、綾小路くん何考えているんだろう」
「知らん」
少しすると軽井沢がボロボロの姿で戻ってきた。
軽井沢のケアは櫛田に任せ、俺は綾小路を待った。
「比企谷 待っていたのか?」
「あぁ。一つ聞き忘れた事があったからな」
「なんで俺と桔梗を巻き込んだ?今回、俺達がいなくても対処できたんじゃないか?」
「オレの目的のため、お前達二人は早めにこちら側にしておきたかった。オレの実力とクラスメイトの秘密の共有。対価として十分だと思うが?」
「前にも言っただろ。俺を利用するのは構わん。だが、桔梗には危害を加えるな。」
……
「こんな所で寝て、寒くないのか?」
次の日の朝、石畳で寝ている龍園を見つけた。これどういう状況?
「腐り目か。綾小路にやられた俺を笑いにきたのか」
「いや。この状況誰にも想像できんだろ。
それに龍園は龍園だろ?それ以外の何もんでもない。」
「ほれっ」
そう言って、手を差し伸べる。
「なんの真似だ」
「寒空の下で知り合いが倒れてるんだ。手ぐらい差し伸べるだろう。うん。八幡的にポイント高い。」
「ふざけた野郎だ」
「…………」
「…………」
腐り目の手を借り、ベンチに座った俺達は特に会話もなく冬空を眺めていた。
「あいつの事知ってたのか?」
「あぁ。あそこまでとは思わんかったがな」
「…………」
「…………」
「俺は退学する。もうどうでもよくなった。」
「そうか。
そう決断したんなら別にいいんじゃないか。」
「クククッ。お前がCクラスだったら面白かったのにな。
最後だ。連絡先教えろ」
龍園に連絡先を教えるとポイントが送られてきた。
「これからの迷惑料だ。受け取っておけ」
「これからの迷惑料?」
「俺がいなくなれば、誰もひよりを止められねぇ。
かなり我慢させてきたからな。
これからよろしく頼むぞ。」
「おっ…おい!龍園。いや龍園さん!た…頼む!!退学撤回して、Cクラスの王に復権して下さい。お願いします。綾小路はなんとかします。お願いします。」
「クククッ。じゃあな。腐り目」
そう言って笑いながら龍園は学校に向かっていった。
その後、どうやら龍園は退学を思い止まったらしいが、表舞台からは一時姿を消した。
7〜9巻はこんな感じで進むと思います。
途中経過
7.5巻:没になりそう。
8巻:迷走中