混合合宿最終回です。
林間学校での生活も6日目の火曜日を迎えた。ともなると、男子からはちょっと変わった声が聞こえるようになっていた。
異性が恋しい。
そんな声だ。その他にも慣れないメンバーとの共同生活でストレスが限界に近づいているのか、些細な事で衝突が起こるようになってきた。その中心はDクラスの石崎だ。
グループの雰囲気が少しづつ悪化しているのを感じながら夜を迎える。入浴を終え、部屋に戻ってきても室内の雰囲気はこれまでで一番険悪だった。やがて、消灯の時間が近づいたことを確認した弥彦が、部屋の電気を落とした。早く一日を終わらせるために。
「なぁ石崎。ちょっといいか」
真っ暗な中、沈黙を破ったのは橋本だった。
「よくねーよ」
石崎は拒絶する。
「このままだと多分このグループは結果を得られない」
「っせえな。知るか」
「やれやれ…」
諦めたように橋本はため息をついた。
「ふー…」
「俺は小、中とサッカーをやっていた。」
橋本はいままでの人生を語り始めた。名門と言われる学校でレギュラーだった事。煙草を吸ってた時期があり、全国を目指すチームに馴染めずサッカーを辞め勉強に専念した事。世渡りは上手いと自覚しているが、平田達をみるとサッカーを辞めた事に後悔している事。それは嘘偽りのない率直な橋本の思いだと感じた。
「おまえは?どんな幼少期だったんだ、石崎」
「は?なんで俺に振るんだよ」
「なんとなくな」
「は…俺は何もねえよ」
語るものはないと、話す事を拒む。
今の橋本の発言だが、紛うことなく本物だろう。グループの為に語ってくれたにも関わらず、このまま見過ごすのか?それは違うだろう?八幡。
橋本の思いに応えるべく、俺は口を開いた。
「俺の両親は共働きでな。世間でいう社畜そのものだ」
「八幡?」
「物心ついた頃にはいつも家では妹の小町と二人きりだ。小学校に通いだして少したった頃だったか、相応に友人を作りたいと考えた俺は小町より友人との付き合いを優先するようになった。結果、寂しさに耐えられなくなった小町は家を飛び出した。それ以降、俺は友人を作らないと決めた。」
「中学2年になった時、中学生活を振り返ってという作文の課題があってな。俺は『青春なんて欺瞞だ。リア充爆発しろっ!』って書いたんだ」
「それはなんというか…」
「その結果、担任に『奉仕部』というよく分からん部活にいれられた。俺を含め最初は2人だったが、最終的には3人プラス1か。色々と問題だらけだったが、俺はその場所、その関係を気に入っていた。友人なんぞいらんと思っていたが、人との関わりも悪くないんじゃないかと今では思っている」
「俺は人より優れた人間ではない。むしろ欠点だらけだ。本来なら(そう。雪ノ下のように)グループの模範となるべき責任者なのにその責務が全うできてない事は理解している。すまん」
「ざけんな、んなので謝んなよ…」
「そもそも誰もやろうとしない責任者にお前がなったんだったな。それに朝食の準備を含め色々と世話になっている。」
南雲先輩が一方的に決めたとは言え、それを引き受けた八幡の誠意やこれまでの働きに石崎は気づいたのだろう。
「それは違いない」
笑いながら橋本は言った。
勉強ができる生徒、できない生徒。運動ができる生徒、苦手な生徒。そんな十人十色の生徒が集まって、一つのグループやクラスができる。そこには敵とか味方とか以前の問題があるだろう。
ぽつりぽつりと他の生徒も語り始める。
この日、この夜、俺達のグループが初めてグループらしさを見せた。
そんな気がした。
……
7日目、俺達は明日のテストである駅伝について話していた。
「俺達は10人しかいない、だから1人1人に大きな負担になるが、場合によっては逆に優位に運ぶかもしれない」
簡単に説明すると運動が得意なメンバーに多くの距離を担当してもらう事が可能だ。石崎、橋本といった運動に自信があるメンバーが名乗りをあげてくれ、加えて清隆もある程度カバーしてくれるらしい。
「高円寺は信用していいのか?」
弥彦がグループの懸念点を指摘する。
「あぁ。問題ないぞ」
「全く信じられないんだが根拠はあるのか?」
「色々と思う事はあるだろうが、退学になる可能性が少しでもあれば高円寺は協力してくれる。本気で取り組んでくれるかはわからんがな」
「仮にこのグループが最下位になっても、私が退学するわけではない。責任者である君が退学するだけだ。同じクラスメイトである私を名指しで道連れにするような非道な行為を君がするわけがない。そうだろう?」
「いや。指名するが?俺が退学した後なんぞ知らん」
「それに今回、堀北先輩と南雲先輩の勝負もあるだろ?あきらかに手を抜いた結果、負けましたとなったら俺が指名せんでも南雲先輩に目をつけられるぞ。それだけでかなり学生生活窮屈になるんじゃないか?」
「はははっ。必要以上の事はするつもりはないが、必要最低限の事はこなしてみせようじゃないか。私にも流儀はあるからね」
「もっとも私の場合、最低限でもそれなりに優秀な結果を取ってしまうだろうが、まぁそれは君達にとって朗報だろう?」
……
林間学校最終日、つまり特別試験によってグループの優劣を決める日がやってきた。
「とりあえず、やることはやった」
「俺もそう思うぜ。
1週間責任者をやってくれてありがとよ比企谷」
「結果はどうあれ全力を尽くそう」
「よろしくな」
メンバーはそれぞれ称え合い、握手を交わす者も。
その後、俺達は指定された教室へ向かった。
これから『禅』『駅伝』『スピーチ』『筆記試験』が行われる。俺達1年はまず、座禅から始まる。そして、次に筆記試験。それから駅伝、最後にスピーチという流れだ。
【座禅】
特に大きな失敗はなく終える事ができた。それにしても、清隆・高円寺の2人は非の打ち所がない。おそらく満点だろう。
【筆記試験】
特筆すべき点はない。この林間学校で学んだ事が、そのままテストに出題された。ほとんどの生徒が高得点を得るだろう。
【駅伝】
とにかく後半の石崎、橋本、清隆の3人にかかっている。高円寺は手を抜いたか直にわかるようアンカーに配置した。
結果は全体で2位となり、期待以上の結果となった。
【スピーチ】
駅伝で激走後のスピーチは地獄!以上
こうして1日がかりの長い特別試験を終える。当初想定はしていたが駅伝を除き、優劣に大きな差がでる内容ではなかった。真面目にさえ取り組めば退学は免れるだろう。
「林間学校での8日間、生徒の皆さんお疲れさまでした。試験内容は違えど、数年に一度開催される特別試験。前回行われた特別試験よりも全体的に高い評価となりました。ひとえに皆さんのチームワークがよかったのが要因でしょう」
初めて見る初老の男性が終始笑顔でそう報告する。
どうやらこの林間学校を取り仕切っている人物のようだ。
「先に結果に触れる事になりますが、男子生徒の全グループが学校側の用意したボーダーを越えており、退学者は0というこれ以上ない締めくくりとなりました。」
『男子生徒』はか…まぁ桔梗達は問題ないだろう。
「それでは、これより男子グループの順位を発表します」
男子生徒の総合1位は堀北兄が所属する大グループだった。南雲先輩が率いる俺達のグループは一歩及ばす2位という結果に終わった。
「次に女子グループの発表をしたいと思います。1位のグループは3年Cクラス、綾瀬夏さんの所属するグループです」
桔梗が所属するグループが1位になった。クラスとして、かなりポイントを稼げた事だろう。
南雲先輩の策略らしく女子は3年生の二人が退学となったが、どちらもクラスに救済され、8日間の混合合宿は終了した。
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綾小路Side
今回の件でオレは比企谷八幡の評価を上方修正した。
最初に興味をもったのは中間テストに向けての打ち合わせの時だ。その後、八幡とは友人関係となり、休日をともに過ごすようになったが、常に自然体で、会話も多く必要としない関係はオレには心地よかった。
これまでの特別試験を通じて八幡を観察してきたが、オレや龍園に近しい発想をもつが、その影響範囲は比企谷個人に留まる存在と考えていた。
だが、今回はどうだ。このグループが良い成績をおさめたのは確実に八幡のおかげだろう。責任者ではあったが、平田のようなリーダーシップをもっていたわけではない。そして、最後まで誰かに何かを強制することもなかった。
状況把握の正確さ、グループの空気を察する能力、それに『自身の弱さ』を武器にする事はオレには絶対に真似できないだろう。
比企谷八幡と櫛田桔梗か…。一見、正反対のふたりだが
仮にあいつらと相対することがあれば面白くなりそうだ。
混合合宿はこれで終了です。
最後に気づいたのですが、この試験で個人が獲得できるプライベートポイントの最大値は90000ポイントなんですね。八幡ときよぽんが朝食の準備で稼いだ分より少ないという罠…。労働の対価としては時給1000ポイント未満で妥当だと思ったのですが…反省中。
そう考えると船上試験の100万・50万は破格です。プライベートポイントだけみると龍園の戦果は圧倒的ですね。
さて、1年生編も佳境になってきました。
40話を超えても、まだ登場していない坂柳さんの出番がそろそろやってくるかもしれません。