クラス内投票①
3月2日火曜日。朝のホームルーム。
教壇に立った茶柱先生の様子はいつもより格段に厳しい。
「あの、何かあったんですか」
「……お前たちに伝えなければならない事がある」
「1年度における最後の特別試験が、3月8日に始まるのは昨日伝えたとおりだ。この特別試験を終えることで、2年生への進級を完了とする。通例の話だ」
「しかし今年は、去年までと少し状況が異なる」
「学年末試験を終えても尚、本年度は退学者が一人も出ていない。この段階まで進み、退学者が出なかった事はこの学校の歴史上一度もなかった事だ」
「学校側はおまえたち1年生から退学者が出ていない事を考慮し……」
一度、言葉を止める。
喉の奥に下がりそうな言葉、それを絞り出している。
「その『特例措置』として、追加の特別試験を今日より行うことになった。」
「特別試験の内容は極めてシンプルだ。そして、退学率もクラス別に3%未満と高いモノとは言えない」
「特別試験の名称は……『クラス内投票』だ。」
「ルールを説明する。おまえたちは今日から4日間で、クラスメイトに評価をつけてもらう。そして、賞賛に値すると思った生徒を3名、批判に値すると思った生徒を3名選択し、土曜日の試験当日投票する。それだけだ」
追加試験・クラス内投票
試験内容
ルール1
賞賛票と批判票は互いに干渉しあう。
賞賛票ー批判票=結果
ルール2
賞賛、批判問わず自分自身に投票することはできない
ルール3
同一人物を複数回記入すること、
無記入・棄権などの行為も一切不可
ルール4
首位と最下位が決まるまで試験は繰り返し行われ、
最下位は退学処分。
首位はプロテクトポイントが与えられる
ルール5
他クラスの生徒に投じるため専用の賞賛票も
各自1票持っており、記入は強制
……
昼休み、綾小路グループは昼食ついでにカフェで話し合いの場を設けていた。
「……週末にはこのグループの中から誰かが消えているかもしれないわけね。」
言葉を発さず、不安そうにする愛里が小さく首を振った。
「黙って試験を迎える以外に、
やれることはあるはずだよな?啓誠」
不安を払拭してくれることを期待して、明人か啓誠に聞く。それに合わせるように、啓誠は一度頷きメンバーを見渡した。
「明人の言う通り、退学しない為にやれる事はある。そこで提案なんだが、俺達で組んで投票しあわないか?」
「投票しあうって事は、
賞賛票の名前を書きあうって事?」
「ああ、別に俺達の誰かが首位を取れるとは思ってない。ただ、万一の最下位を避けるためにも協力し合っておいた方がいい」
「少しいいか?」
「なんだ。八幡」
「グループでカバーしあうのは賛成だ。ただ、みんなに平等に賞賛票を投票するよりは退学の可能性が高いやつに集中するべきだ。この場で投票先を決めてしまうと思考が停止する。思わぬ自体に見舞われた時にフォローが遅れる心配がある」
「八幡の言う通りだな。それでいこう。
投票前日に誰に投票するべきか決定しよう。」
「決まりだな」
グループの満場一致を受け、啓誠が頷く。
「いや、待ってくれ。ちょっと聞きたい事がある」
「俺達のグループより
大きいグループを作られる事もあるよな?」
啓誠の作戦に同意する明人だが、気になる点もあるらしい。
「もちろん作られるだろうな。
むしろ、その可能性が高い」
「私達も早めに手を打って、他の子に声かける?」
「それができるならこのグループにいないだろ?」
「まーそうね」
「俺達は、とにかく試験が終わるまで事を荒だてないようにする。クラスの誰相手であろうともいざこざだけは絶対に起こさないようにするんだ。」
「つまり…狙い撃ちされないために、目立たないようにするってわけね」
これで綾小路グループの戦略はある程度決まった。
「賞賛票はこれでいいとして、批判票はどうしよう」
「俺は各人の判断にまかせるべきだと思う」
「批判票も協力したほうがよくないか?」
「俺達が協力した所で最大6票だ。全く無駄というわけではないが、退学者を決定づけるには至らないだろう。であれば、わざわざ結託する必要もない。それに誰が退学者になっても後味が悪くなる。」
「まぁ…そうだな。」
……
【From:櫛田桔梗
20時に八幡の部屋にいく
きよぽんに声かけといて
夕食は4人分よろ】
櫛田から連絡があった20時俺達が部屋で待っていると時間通りに呼び鈴がなった。部屋に招き入れると櫛田と一之瀬がやってきた。
「巻き込みたい人って、綾小路君と比企谷君なの?」
「そうだよ。晩ごはん食べながら話しよっか」
「このご飯。比企谷君が作ったの?凄くおいしい!」
バシッ
「にゃっ」
「いいから本題にはいれ」
「きょーちゃん痛いよ。」
「きょーちゃん言うなっ!」
意外だ。櫛田と一之瀬って、こんなに仲良かったのか…
「で?俺と清隆になんのようだ?」
そして、八幡。何故当然のように話すすめてる?
「今回の試験について、帆波ちゃんから相談があってね。おそらく私だけじゃ解決できないと思うんだ。だから巻き込もうかと思って。」
「巻き込むな。で、相談って何だ?」
「それは私から話すね。今回のクラス内投票…退学者を出さない方法はないかな?」
「「2000万」」
「はやっ。」
「他にないだろ」
「そうだな」
「にゃははは…や…やっぱり…そうだよね…」
「で?あといくらだ?」
「クラス全員分を集めても
1600万前後かな…やっぱり難しいよね…」
「私は100ぐらいかな?八幡は?」
「200ちょい」
「えっ?えっ?なんの事?」
「俺と桔梗のプライベートポイントだな。
合わせて300万までだせる」
「清隆?」
「オレだけではないが70万ぐらいだ。」
「えっ…なんでそんなに…」
「「船上試験?」」
「船上試験と龍園からの慰謝料?」
「なにそれ。聞いてない。」
「あっ…」
「と…とにかく。あと30万だ。なんとかなりそうだな」
「それは悪いよ…。Dクラスの為に使うべきだよ」
「う〜ん…トイチでおっけー♪」
「といち???」
バシッ
「いた〜い。何すんの八幡」
「冗談はおいといて
一之瀬。5月のクラスポイント0舐めんな」
「そうだな。全員のクラスポイント集めても
1000万もいかないな」
「残念だけど、それが現実だよ。帆波ちゃん」
「一つ提案がある」
「なんだ?清隆」
「Bクラスの不足分だが、なんとかなる可能性はある。ただ、不確定要素が大きいのも事実だ」
「保険として、一之瀬・櫛田・八幡は残り30万の確保をお願いしたい。あとはオレに任せてくれないか?」
「りょ!」
「分かった」
「え…え〜。誰か説明して〜」
「な…なんで、みんなが元Dクラスなの?」
「腹黒?」
「陰キャ?」
「コミュ障?」