司令塔としての役目について考える。思えば、こうして学校の試験に面とむかって挑むのは始めてのことだ。今回の試験はクラス全体を指揮するという戦い方。クラスのもつ力の範囲でしか戦う事はできない。
誰が誰を好きか嫌いか、何が得意で不得意か。その組み合わせを理解せずして、勝ちへの道筋は開けない。
そして、その情報収集力や統率力という意味では、オレはクラスの中でも下から数えたほうが早いほどに不足している。なら、まずは何をすべきなのか。
決まっている。クラスの事をよく知っている人物に聞く。シンプルだが避けては通れないことだ。
それができるのは
『恵』『平田』そして『櫛田』の3人だろう。
…普通に聞けるな…
それからオレは3人をそれぞれ部屋に招き、
情報収集を行った。
……
2度目のクラス会議が行なわれる。
「今日は長い時間拘束するつもりもないわ」
「この場にいる全員に課題を出させてもらう。明日の放課後までに『自分が得意な種目』そして『絶対に負けない種目』があればそれを考えてきて欲しいの。個人戦チーム戦に関係なくね」
「ああ。比企谷くんは不要よ」
「なんでだ?」
「司令塔から直々にご指名よ。
あとで綾小路君に聞いてもらえるかしら」
「清隆が?承知した」
…
「で、俺を指名した理由はなんだ?」
「八幡には今日からオレとチェスの特訓をしてもらう」
「なんでチェスなんだ?」
「Aクラスは必ずチェスを種目にいれてくる。
今回のルールでは司令塔が関与できるにしても
限定的なものになるだろう。
おそらくは序盤戦が鍵だ」
「ちょっと待ってくれ。それは確実なのか?」
「あぁ。間違いない。
今までは遊びだったが、本格的に教える事にした」
「わかった。清隆に従おう。」
……
それから数日がたった。クラスでは堀北・平田・櫛田の3人が中心となり、種目の選択やルールの設定を検討している。俺は綾小路の特命に従っているが、あいつ鬼だな…。ここ数日睡眠や授業を除いたほぼ全ての時間がチェスに費やされている。もちろんまだ一回も勝てていない。
放課後の訓練が終わり、
部屋に戻るとそこには桔梗と一之瀬がいた。
「なんか大変そうだね…。お邪魔したら悪かったかな?」
「全く気にしなくていいよー。
ここだと周りに聞かれる事もないし、
落ち着いて話ができるでしょ?」
「お前が答えるな」
「で、なんで俺の部屋にいるんだ?」
「帆波ちゃんが愚痴聞いてほしいって言うからね。
せっかくだしご飯に誘っただけだよ」
「はあ〜。で、愚痴って?」
「簡単に言うと、ちょっとDクラスから
強い嫌がらせを受けてるみたいなんだよね」
「バカの一つ覚え?」
「にゃはは。でも笑い事でもないんだ」
BクラスはDクラスの連中を追いかけ回したり、追い詰めているようだが物理的被害はまだないらしい。
「金田くんが指示するとは思えないし、
石崎くんかな?」
「龍園に決まってるだろ」
「えっ。龍園くん?
でも、リーダーから外れているよね?」
「一之瀬だから分かると思うが、噂通り石崎が龍園を
ひきずりおろしたとして、
大量のプライベートポイントを使ってまで
石崎が龍園を救う必要がどこにある」
「……リーダーから外れたのはフェイクって事?」
「そこまでは知らん。ただ、今回のやり口といい
何かしら龍園の関与は視野にいれておくべきだ」
「……うん……きっとそうだね」
「ごめん。きょーちゃん!作戦練り直す必要が
あるからこれでいくね」
「忙しいやつだな」
「帆波ちゃんらしいけどね。八幡このあとは?」
「知ってるだろ。飯食い終わったら、鬼教官の登場だ」
「はははっ。ご愁傷さま♪」
……
長い準備期間を経て、
ついに1年度最終の特別試験を明日にむかえていた。
俺?俺はチェスしかしてないが?
桔梗に聞くと準備や戦略はばっちり。
あとは当日のきよぽん次第らしい。
「はぁ…はぁ…」
頭が痛い。眼もかすんできやがった。
あらためて盤面に目を落とす。そして、読みに間違いがないか確認作業を行う。
「これでチェックメイトだ…」
「ぎりぎりなんとか及第点だな。
あとはゆっくり休め」
「死ね…」
俺はその一言をはきながら、深い眠りに落ちていった。
「あとは任せたぞ櫛田」
そう言って綾小路君は八幡の部屋を出ていった。
「…がんばったね。比企谷くん」