翌日の昼休み終盤の事だ。
「お、おい1年生が何人かこっちに来てるぞ!」
そう叫んだのはクラスメイトの宮本。その1年生の男子生徒が2年生のフロアの真ん中を堂々と歩く姿が印象的だった。通りがかった2年生のほうが端に避けるという逆転現象。少し後ろを歩く女子生徒。それが単なるパートナーを求めての行動ではない事に気付いた堀北が立ちふさがるように男子生徒の前にでる。須藤もそれについていく。
「コイツの名前は?」
「少し待って下さい。……出ました。」
少しの間携帯を操作していた少女は、程なくして携帯の画面をみせる。
「2年Cクラス、堀北鈴音。学力はA−か」
「須藤健……ハッ」
「私は1年Dクラスの七瀬と申します。
こちらは同じDクラスの……」
「宝泉だ」
そこから堀北と宝泉の交渉という名のバトルが始まる。お互いにもう少し言葉を選べんのか…。
「うおっ!?」
宝泉の大きな手が須藤の胸を押した。その瞬間バランスを崩し尻もちをつくように床に手をついた。
「デカいのはタッパだけか。軽く触っただけだぜ?」
「てめー」
「何やってんだ!」
そこに飛び込んできたのは2年Dクラスの石崎だった。Dクラスそれも龍園を巻き込み加熱していく状況。本格的な喧嘩が始まるかもしれない。そんな中、終始見守っていた七瀬が口を開く。
「宝泉くんやめてください」
「何か言ったか?」
「これ以上無駄な事をするようでしたら、こちらにも考えがあります。この場で「アレ」を周知させることも視野にいれます」
「上等じゃねえか七瀬。だが、俺の期待に背いたら、女でも容赦しないぜ?」
「その時は受けて立ちます」
「止めだ。目的は果たしたことだし、帰るぞ七瀬。
それじゃあ、またな堀北」
わざわざ堀北を……
いや2年Cクラスを名指しした宝泉。
「お騒がせしました」
最後に七瀬が頭を下げ、この場はなんとか治まる事に成功する。そして、入れ替わるようにして落ち着きをみせた男子が2年生に対して頭を下げた。
「同級生の宝泉くんが、先輩達を困らせたようで、改めて1年を代表して僕が謝罪します」
先ほどとは打って変わって、話が通じそうな生徒のようだった。
「僕たち1年生は、まだ特別試験というものをよく理解できていません。お手数をおかけしますが、どうぞ先輩方よろしくお願いします」
謝罪と挨拶を兼ねた言葉を終え、その生徒も引き上げを示唆する。と、その時何かに気づく。それは丁度お昼から帰ってきたと思われるCクラスの女子数名。松下、櫛田、佐藤、みーちゃんの4人。その中の一人である、櫛田を見て驚きの表情を浮かべた。
「なんだか随分と騒がしいね。
何かあったの?堀北さん」
「あの…もしかして櫛田先輩、ですか?」
「え?えっと?」
「僕です。分かりませんか?
といっても無理ないですけど。八神拓也です」
「八神…あ!え、あの八神くん!?」
(誰?こいつ?)
「そうです。あの八神です。お久しぶりですね!」
「八神くんもこの学校だったんだ。
すごい偶然だねー!」
(どの八神だ?)
「まさかここで櫛田先輩に再開するなんて思っても見ませんでした」
「知り合いなの?」
不思議そうに佐藤が聞くと、櫛田が頷く。
「うん。といっても接点はほとんどなかったんだけど。八神拓也くん。物凄く頭がよかった印象が残ってる。学年が違ったから、挨拶くらいしかした事なかったんだけど」
(全く知らん。うちの学校にこんな子いなかったはずだけど。後でいろはに確認するか…。八幡は堀北同様役にたたん)
「憧れだった櫛田先輩と、またこうして同じ学校になれるなんてラッキーですよ」
「そんな…」
(あっ。これ嘘のやつだ)
「いきなりですが先輩なら文句ありません。
僕とパートナー組んでもらえませんか?」
「私なんかでいいの?八神くんだったら、もっと勉強のできる人と組んだほうがいいよ」
(別にパートナー探し困らないしね)
「右も左も分からないですから。それなら信頼のおける人をパートナーにしたいですね」
「えっと、少しだけ考えさせてくれる、かな…?」
(別にいいんだけど、一回八幡にも聞いとこ)
「もちろんです。僕はしばらく誰とも組まずに、櫛田先輩の返事を待つ事にします」
……
その夜、俺といろはは清隆に呼び出され、部屋にいくとそこには堀北が待っていた。
「今日は二人にお願いがあって来てもらったわ。早速だけれども、まずは一色さん。Aクラスの生徒を紹介してもらえないかしら?」
「申し訳ありませんが、それはできません」
「なぜ?理由を教えてもらえるかしら」
「Aクラスの生徒もしくは私にメリットがありません。既に学力の高い生徒は2年AクラスとDクラスからポイントでの交渉を受けています。堀北先輩はそれ以上のメリットを提示頂けるのでしょうか」
「今回、私達Cクラスはポイントで交渉するつもりはないわ。でも、貴方に声をかけてもらえれば何人かは話を聞いてもらえるんじゃないかしら?」
「私にはデメリットしかありません。先輩に頼まれたのならやぶさかではありませんが」
「デメリットってどういう事かしら」
「堀北先輩がメリットを提示しない以上、私がクラスメイトに借りを作るだけで終わります」
「わかったわ。時間を取らせたわね」
「次に比企谷くん。
明日の放課後は空いているかしら?」
「いつもどおりだ」
「あなた性別は男よね?」
「何を言っている?」
「ただの確認よ。作れない料理はあるかしら?」
「だいたいは作れるが…何を聞かれているんだ」
「大事な事よ。
最後にあなたの部屋の合い鍵はあるかしら?」
「あるにはあるが…」
「明日1日綾小路くんに貸してもらえないかしら?」
「それは構わんが何をするつもりだ」
「明日の放課後、あなたの部屋に綾小路くんが一人の生徒を連れて行くわ。その生徒が指定した料理を作ってもらいたいの。お願いできるかしら」
「それはいいが、なぜ俺なんだ?」
「Cクラスで料理が得意な男子生徒なんてあなたぐらいよ。比企谷くんでダメなら諦めもつくわ」