「ではこれより3つ目の課題に移らせてもらう」
様子こそ最初から変わらない茶柱先生だったが、僅かに声のトーンに変化がみられた。ここまでの楽な課題からは、何か流れが変わるかもしれない。
【課題3】
毎月クラスポイントに応じて支給されるプライベートポイントが0になる代わりにクラス内のランダムな生徒3人にプロテクトポイントを与える。あるいは支給されるプライベートポイントが半分になり任意の1名にプロテクトポイントを与える。そのどちらも希望しない場合、次回筆記試験の成績下位5名のプライベートポイントが0になる。
※どの選択肢が選ばれても、プライベートポイント没収期間は半年間続く
「課題3は以上で終了となる。これより先半年間、プライベートポイントの振り込みは全員が等しく半額となるが、堀北へのプロテクトポイントは今の時点で付与することになる」
啓誠の発案が採用され、3回の投票の結果、堀北にプロテクトポイントが与えられる事になった。それにしても優秀な生徒にプロテクトポイントを与える必要はあるんだろうか?成績は優れないがクラスに必要な存在。そんな生徒にこそ必要ではないだろうか。それに、この試験プロテクトポイントは無効化されている。今回同様に学校側が無効にできるなら存在意義は薄れる気もするんだがな。
【課題4】
2学期末筆記試験において、以下の選択したルールがクラスに適用される
【選択肢】
難易度上昇
ペナルティの増加
報酬の減少
筆記試験に自信のある生徒とない生徒の間で熱い議論が行われたこともあり、課題は長引くかと思われたが、次の2回目の投票で『ペナルティの増加』の選択肢で満場一致の結果を導き出した。真面目に取り組めばペナルティを避けることは難しくないとの堀北の強い説得も功を奏したようだ。
制限時間5時間の中、俺達は2時間ほどで最後の課題に辿り着いた。
「それでは…最後の課題だ」
課題が1つ進むごとに、明らかに茶柱先生の顔色は悪い方向に変わっていった。それもいよいよピークに達したのか、青ざめた様子であることは生徒たちの目にも明らかだった。
ホントに性格悪いな、あの酔いどれ天使。この後の事を考えると少し心が痛む。
「では、最後の課題を表示する。投票の用意を」
そう伝え、茶柱は呼吸を整えながら手元のタブレットを操作する。そうして俺達の目の前に最後の課題が表示された。
【課題5】
クラスメイトが1人退学する代わりに、クラスポイント100を得る(賛成が満場一致になった場合、退学になる生徒の投票を行う)
【選択肢】
賛成
反対
なるほどな。これと同様の課題が3年生の3学期にあればクラスは荒れる。俺達はこの時期で助かったな。Aクラスとの点差を考えても今無理をする必要はない。
「これから60秒のカウントを始める…全員、投票を始めるように」
「…全員の投票が終わったため、その結果を伝える」
明らかな異変を抱えながらも、茶柱先生は姿勢を保ったまま進行を続ける。
『第1回目投票結果』
賛成 3票
反対 36票
「…………」
結果を読み上げ進行させるべき茶柱先生は、生徒たちと同じようにモニターを見つめたまま動かない。その結果は意外なもの…とまでは至らないような票の割れ方だ。
「茶柱先生。進行して下さい」
数秒とはいえ時間を垂れ流している茶柱先生を、後方から教師が注意する。
「ッ……。すいません。えー…賛成3票、反対36票。満場一致にならなかったためインターバルに入る」
「おい誰だよ賛成なんかに投票しやがったのは!ふざけてんのか!?」
誰だよと言いながらも、須藤の強い視線は一方的に高円寺に向けられる。
「どっちに入れたんだよ高円寺」
「応える必要があるのかね?」
須藤が高円寺を詰問するがのらりくらりで躱される。また、堀北より事前に清隆と申し合わせて、初回の投票は1番目を清隆。2番目に堀北が投票する事を示し合わせていた事が説明される。つまり1回目の投票で賛成に投じたのは2人という事だった。
『第2回目投票結果』
賛成 3票
反対 36票
「ちょっと待って……これはどういうこと?」
須藤を含め、堀北の先程の説明を理解している生徒は清隆を見る。
「オレは1回目の投票と今の2回目の投票、そのどちらも反対票を投じた。流石にこの課題は内容が内容だけに、1回目から反対に投じた方がいいと勝手に判断した。その事を伝えなかったのは余計な混乱を招きたくなかったからだ」
1回目の投票で賛成が3人いたとなれば、動揺は増える。どうせ高円寺の悪ふざけだろう、ということだけで終わらせる事ができなくなった。ここまで冷静に運んできた堀北も、少しだけ取り乱す。
「そう…現状賛成だと考える人が3人はいる、ということね」
堀北は賛成に票を投じている見えない3人に対してプレゼンを求める。それに続き洋介が説得を試みた所で高円寺が賛成に投票した事を自白した。高円寺を退学者として、票を賛成にまとめる。そんな意見もでたが…
「全員が賛成に票を投じるのは願ってもないことさ。しかし、それで私を退学にさせられると思うのはやめた方がいい。そうだろう?堀北ガール」
「…彼の言うとおりよ。高円寺くんを退学にすることはできないわ。私は無人島試験が始まる前に高円寺くんと約束をしたのよ。もし、無人島で1位を取ったなら、今後卒業まで彼を守る、と」
『第3回目投票結果』
賛成 3票
反対 36票
過去2回と同じように高円寺と見えない誰か2人が賛成に投票している。今はまだ高円寺の方に多くの生徒が重きを置いているが。
(八幡Side)
高円寺か…俺にとっては好都合だが、考えている事は一緒だな。見方を変えれば退学者がでるかどうかなんて問題じゃない。
(清隆Side)
賛成に投票しているのは高円寺を除くとおそらくあの2人だろう。でも何故だ?動機がわからん。
堀北は具体的な損得を引き合いに出し、不一致で試験が終わるリスクを説明する。だが、高円寺は態度を軟化させることはなく、微笑だけ。
『第4回目投票結果』
賛成 3票
反対 36票
3度目のインターバルが茶柱先生の合図によって開始される。堀北は客観的な視点から高円寺への説得を試みる。会話の中から糸口を掴んだのか月々堀北が高円寺に1万ポイントを支払う事で高円寺から反対に回ると言質をとる事に成功した。
『第5回目投票結果』
賛成 2票
反対 37票
「おやおや、簡単に物事は進まない様だねぇ」
「言ったけれど、反対で満場一致にならない限りさっきの契約は無効よ」
「分かっているさ。流れの中で賛成で満場一致になる。あるいは時間切れになってしまった場合にはやむを得ず諦めることにするよ」
そのまま賛成に票をいれている人物の手がかりはなく時間だけが過ぎていく。
『第6回目投票結果』
賛成 2票
反対 37票
『第7回目投票結果』
賛成 2票
反対 37票
『第8回目投票結果』
賛成 2票
反対 37票
何ら変わり映えしない結果が続き、会話はいつしか沈黙が多くなる。次で8回目のインターバルが始まる。残された時間も2時間を切った。ガタ、と一際大きな音をたて茶柱先生は体勢を崩した。突っ伏すように腕を教壇に押し当て、なんとか倒れることを防ぐ。
「はあ、はあ…」
話し合いが続く中、ずっと教壇に立ち続ける先生の息が荒くなっていた。
こんな所で十分だろう。俺は1つ目の用事を終わらせる。船上での星乃宮先生からの願い。それは茶柱先生をぎりぎりまで追いつめる事だった。普段なら了承しない依頼だが、酔っているにも関わらず目は本気だった。詳細までは伺い知れないが、おそらく2人にとっては必要な儀式なんだろう。
茶柱先生は高度育成高等学校の出身で満場一致特別試験に挑んだ事がある事。賛成、反対、時間切れ。その結果に対し、後悔しない道を模索するよう説いた。
それを受けての9回目の投票。
『第9回目投票結果』
賛成 2票
反対 37票
「あぁもう!頭がおかしくなりそうだぜ!わけわかんねーー!また、お前じゃないよな?比企谷」
「おっ。正解だ。やるな須藤」
「な…何言ってんだお前」
「だから、賛成に投票している2人の内、1人は俺だと言ったんだ」
「なんで…」
「あなたは何を考えているの」
「そろそろ大丈夫だとは思うんだが、念の為だ。あと1回投票した後で、話そう。別にいいだろ?10分なんてすぐだ」
「あなたには時間が無いのが分からないの」
「もういい。賛成で一致させて比企谷を退学にしようぜ」
そんな声も当然あがる。
「無駄だと思うがな。やりたければ俺は構わないぞ」
「ちょっと待って。次の投票が終わったら話してくれるのね」
「ああ、約束しよう」
『第10回目投票結果』
賛成 2票
反対 37票
「これでいいのね」
「ああ、俺がしたいのは文化祭の話だ」
「何を言っているのかしら?」
「佐藤達の案。総合プロデュースを依頼したのはお前だろう」
「確かにそうだけど、今関係があるの?」
「茶柱先生。試験が終了したクラスは何をしてますか?」
「寮での自習になる。外出も認められない」
「だ、そうだ。おそらく他のクラスは既に試験を終えている。つまり、今校舎に残っているのは俺達だけだ。しかも、先生の監視つき。クラス全体で内緒話をするのにこれ以上の環境はないだろうからな」
「あの企画は検討段階よ。まだ、正式に認めたわけではないわ」
「だから、1つ目の要求だ。この場で承認しろ。無駄な努力は俺もしたくないんでな」
「なんの事言ってんのかわかんねー。もういい比企谷を退学にしちまおうぜ」
気の短い須藤からそんな声があがる。
「八幡…」
洋介からは信じられないといった声がかかる。
「さっきも言ったが無駄だと思うぞ。あと洋介。お前も勘違いしている。俺は誰も退学者を出すつもりはないぞ」
「ど…どういう事?」
「そうだな。俺の要求が通らなかった時に訪れる結果は時間切れだ。全員が賛成に投票するなら俺は反対に投票する。もちろん読み違える可能性はあるがな。それを期待して回数を重ねてみるか?」
僅かだが時間切れという言葉に茶柱先生は反応する。
こんな所ッスかね。星乃宮先生。
まあ、桔梗がいる限り読み間違える事もない。
(綾小路Side)
なるほど上手い手だ。誰もが時間切れを最悪の結果と考え、賛成か反対かで議論していた。だが、時間切れも選択肢にいれた場合、300クラスポイント。人質には効果的だろう。先程の高円寺もそうだが、自身の要求を通すには最適の場だな。
「わかったわ。承認しましょう」
「では、次だ。文化祭の企画にあたって俺は『この場にいる全員』の協力を求める。一切の例外は認めない」
「あなたの要求がどのようなものか分からない以上、簡単には認められないわ」
「それはそうだな。…なら補佐に櫛田をつけてもらおう。みんなへの依頼は一度櫛田が確認する。櫛田が確認して問題ないと判断したものに限定しよう。俺を信用できなくても櫛田なら信用できるんじゃないか。もちろん櫛田が了承してくれる必要はあるがな」
「…うん。わかったよっ。みんなのために私、せいいっぱい頑張るねっ。みんなも私の事信用してくれないかなっ」
(ずるっ)
(きょーちゃんが断るわけないじゃん)
(出来レースだな…)
「それは私も含まれるのかね?比企谷ボーイ」
「もちろんだ。ただ、お前が拒否するなら、その分堀北が補填してくれても構わんぞ。お前もこのまま時間切れで終わればさっきの堀北との契約もチャラだ。悪い話ではないだろ?」
「何を勝手に…」
「はっはっはっ。この試験賛成する生徒など私だけだと思ったのだが読み間違えたようだ。敬意を評してその条件飲もうじゃないか」
「一応、高円寺にもメリットがあるプランは考えてある。良ければ一考してもらえると助かる」
「投票の時間だ」
『第11回目投票結果』
賛成 2票
反対 37票
(ホント私より性格悪いよね♪)
「まだ、俺以外に納得できん生徒がいるみたいだな。そうだな…まずはみんなに謝罪したいと思う。特別試験のこんなタイミングで俺自身の要求を突きつけるみたいは形になってすまん。ただ、堀北と綾小路から渡された企画書。佐藤と松下と王、前園が作ったものなんだが、それを見た時に必ず校内で1番になれる。俺はそう思ったんだ」
文化祭の企画をした佐藤たちから声があがる。
「比企谷くん…」
「みんなが知っての通り、俺の交流関係は広くない。クラス全員の協力を得るためには、こういった手段しか思いつかなかった」
次は綾小路グループをはじめとした八幡を良く知る生徒。
「ハチ君…」
「八幡…」
「俺は必ずこの企画で校内1位をとってみせる。もちろん、俺を信じられなくても構わない。この企画を考えた佐藤達、俺に総合プロデュースを頼んできた堀北に清隆、急な依頼にも快諾してくれた櫛田を信じて協力してもらえないだろうか」
そして全体に呼びかける。
「堀北。あらためて言うが『例外なく』『この場にいる全ての人間』が協力する。お前が代表して誓約してもらえないか」
「みんなに聞くわ。この誓約に異議がある人はいるかしら」
「……」
「無いようね。比企谷くん、わかったわ」
「茶柱先生。この誓約受理してもらえますか」
「分かった。受理しよう」
『第12回目投票結果』
賛成 0票
反対 39票
……
「そして、ここからが本命なんだが。明日の特別試験、仮にクラスメイトを退学にする選択肢が発表された時、『茶柱先生』が『受理する』と言うまで退学者がでる選択肢を選んで欲しい」
過去最長になったかもしれません。桔梗ちゃんか追い詰められていない本作ですので退学者は出ませんでした。かなり結末に悩んだのですがどうだったでしょうか。
メイドカフェ?校内で上位になるために覚醒愛理の存在は必要不可欠です。たかが100ポイントではもったいないです。